サインの求めに応じるサッカー日本代表の加藤恒平
サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会アジア最終予選(6月13日、イラク戦)に臨む日本代表に、異色の経歴を持つ選手がサプライズ選出された。ブルガリア1部ベロエ・スタラザゴラの守備的MF加藤恒平(こうへい)(27)だ。JリーグでのプレーはJ2での1年だけで、南米や欧州で経験を積んできた。
和歌山県新宮市の出身。J2千葉の下部組織でプレーした後、立命大在学中にアルゼンチンへ単身渡った。将来の目標であるスペインリーグと同じ言語で、欧州に多くの選手が移籍しているのが理由だった。スパイクの歯が刺さらないほど堅いグラウンドでの練習を強いられたり、連敗に怒ったサポーターが猟銃を持ってロッカールームまで押しかけたり。「人生で一番大変な時期。いろんな経験をした」
2012年にJ2町田へ入団し、リーグ戦29試合出場。だが、海外でのプレーを希望して1シーズンで退団。所属先がなかなか見つからず、欧州南東部モンテネグロのクラブへの入団が決まったのは翌年の夏だった。当時の週給はおよそ300ユーロ(約3万7千円)。経済的に苦しく、別のクラブの入団テストをオーストリアまで受けに行き、約30時間、バスに揺られて戻ったこともある。
173センチと決して大柄ではないが、的確な状況判断で相手のスキを突いて球を奪い、攻撃へ転じるプレーで評価を高めた。ポーランド、ブルガリアとクラブを渡り歩き、16~17年シーズンは公式戦31試合に出場し、1得点。日本代表のハリルホジッチ監督は「彼はボールを奪う人。攻撃の組み立てもできる。ほぼ1年かけて追跡した。直接目で見て彼の能力を判断したい」と初の代表招集を決めた。
加藤は、28日に始まる海外組合宿に参加するため26日に帰国。人生初のビジネスクラスを体験し、羽田空港に降り立った。待ち受けた多くの報道陣を前に、堂々と言った。「周りの代表選手はビッグクラブでプレーしている選手ばかりで、自分は一番下からのスタート。どんな状況でも諦めないのが一番の長所。しっかりアピールしたい」(清水寿之)