名前の変更を求めて最高裁に特別抗告をしている申立人のAさん。現在は新しい職に就いている(本人提供)
松山市出身で関東在住のAさん(26)は性同一性障害(GID)で、女性の体に男性の心を宿す。戸籍上は「A子」と女性的な名前だが、自分の名前に違和感を感じ、性別を変えなくても「A」と名乗れるように戸籍上の名前の変更を求め、昨秋から裁判所に訴えている。松山家裁と高松高裁で棄却され、3月に最高裁に特別抗告した。
Aさんが自分の性に違和感を覚えたのは小学5年生の時。ドラマ「3年B組金八先生」でGIDの役を演じる俳優・上戸彩さんの姿を見て、自分と近いものを感じた。高校時代は友人から「一緒に化粧をしよう」と誘われるのが怖く、スカートもはきたくなかった。高校2年の時には、友人だった女子生徒を好きになった。自分が何者か分からず、毎日が苦痛だった。
高校卒業後、インターネットでGIDを知った。自分と同じ悩みを持つ人がいると分かった。最初に就いた仕事は事務員。ピンク色の制服に毎日ストレスを感じて体調不良になり、1年7カ月後に退職。制服のない職場を求めてコールセンターで働くようになった。
松山市で、GIDの診断を受けた同世代の人と出会った。その人はホルモン療法を受け、戸籍上の性別や名前を変更していた。2004年に性同一性障害特例法が施行され、「生殖腺がないか、生殖機能を欠いている」「性別変更後の性別に近似する性器の外観を備える」などの要件を満たせば、戸籍上の性別を変更できるようになっていた。
「いつか自分も名前を変えたい」と思うようになったAさんは13年9月、東京でGIDの診断を受けた。15年夏からは、「A子」から「子」を取り除いた「A」と名乗り始めた。松山市の会社に勤めた後、関東の会社に転職。履歴書の欄にGIDの診断を受けたと記載して事情を説明し、通称名で働いた。昨年からは郵便物なども通称名で受け取るようになった。
関東の職場では、名札も「A」と記載され、上司は「A君」と呼んでくれた。ありのままの自分を認められた気がした。家庭の話題になっても、上司は「A君は長男でしっかりしているから大丈夫」と話し、言葉の端々で気遣いを感じた。同僚も自分がGIDだと知っても構えず、「A」として接してくれた。
ただ、病院などでは戸籍名を使う。病院で自分の名前が呼ばれる度に、気持ちが暗くなった。
今の法律で戸籍を男性に変える…