袴田巌さんの写真を持つルービン・カーターさん(2008年1月、笠井千晶さん提供)
2016年のノーベル文学賞を受賞した米国人ミュージシャン、ボブ・ディランさん(76)の代表曲のひとつに、「ハリケーン」がある。歌の主人公は冤罪(えんざい)と闘う黒人の元ボクサー。無罪を勝ち取った彼は、同じように冤罪を訴えていた日本の元ボクサーに「東洋のハリケーンへ」と励ましのメッセージを送っていた。
「西洋のハリケーンから東洋のハリケーンへ――。俺は生き延びた。あなたも生き延びてくれ」
2008年1月、東京・後楽園ホール。スクリーンに元世界ミドル級1位の米国人、ルービン・ハリケーン・カーターさん(享年76)のビデオメッセージが流れた。
彼が呼びかけた「東洋のハリケーン」は、1966年に静岡県清水市(現静岡市清水区)で起きた一家4人殺害事件で死刑が確定しながらも、無実を訴えていた袴田巌さん(81)。メッセージは、日本プロボクシング協会が開いた袴田さんを支援するチャリティーイベントで流された。
「実に感動的な光景でした」。ボクシングジャーナリストの前田衷さん(68)が振り返る。ホールにはディランさんのハリケーンも響いた。
きっかけとなったのが、約30…