「猫庭」で猫を抱く手島英樹さんと姫萌さん=山口市阿知須
飼い主のいない猫たちの居場所「猫庭」が、山口市阿知須のてしま旅館にできて1年になった。県内外の猫好きたちに好評で、旅館は「もっと多くの命を救いたい」。増築のための支援を募っている。
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「ニャーン」。猫庭に足を踏み入れると、トラ猫がすり寄ってきた。我関せずと、のんびり寝そべる猫もいる。猫庭といっても、JRの貨物コンテナ2個を並べた個室だ。野良猫や飼えなくなった猫を引き受け、世話をしながら新たな飼い主を探している。宿泊客も中に入って、猫たちとのふれ合いを楽しめる。
「この子は人間好きで猫嫌いです」。旅館を経営する手島英樹さん(40)の次女姫萌(ひめも)さん(9)が教えてくれた。「猫庭館長」としてコンテナの中を掃除したり、けんかを仲裁したり。性格や健康状態を観察し、一匹ずつの「カルテ」も作る。「大変だけど、保健所に行く子が減るならうれしい」とはにかんだ。
手島さんが猫庭を設置したのは昨年6月。野良猫が殺処分される現状を「何とかしたい」と思った。インターネットで寄付を募るクラウドファンディングで資金を集め、コンテナ2個を購入した。猫たちが過ごしやすいよう、木材の内装にして冷暖房やトイレをつけた。コンテナの一面はガラス張りで、日当たり良好。旅館ロビーのソファは、ガラス越しに猫たちの様子を眺めながらくつろげる特等席だ。
旅館の経営と猫の保護を両立できるか。不安はあったが、猫好きが全国から集まるようになった。リピーターが増え、この1年間の宿泊客数は前年を上回った。その利益をえさ代、避妊・去勢の手術費に充てている。「猫と旅館は持ちつ持たれつ。まさに『猫の手を借りている』状態です」
宿泊客との会話も格段に増えた。「かわいい!」「あの子、どんな子ですか」。猫たちの情報を発信するSNSに固定ファンがつき、猫を引き取った人は感謝の言葉や写真とともに近況を知らせてくれる。この1年で55匹が引き取られたという。
定員20匹の猫庭はいつも満員状態。「新しい猫の受け入れを断ることもしょっちゅう」で、増築を目指している。コンテナを買い増し、2階建てにする計画だ。手島さんは「実現すれば、1年間で200匹の命をつなげられる」と期待する。
かかる費用は360万円。24日まで、クラウドファンディングのサイト「READYFOR」(
https://readyfor.jp/projects/12091
)で受け付けている。
手島さんは「猫庭を通して、猫ブームの裏にある殺処分の現状を知ってもらいたい。一つでも多くの命を救えたら」と話している。(尾崎希海)