高江洲さんが自宅に置くボール=沖縄県うるま市
全国の先頭を切って17日に開幕した夏の高校野球沖縄大会。沖縄県の球場では毎年、ホームランボールに日付や名前を記し、打った選手に手渡す男性がいる。「球児に努力の証しを贈りたい」。今年も筆ペンを握り、白球を待つ。
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県高野連評議員の高江洲登さん(83)=うるま市。高江洲さんは野球部の監督を退いた25年ほど前から、筆ペンと消しゴム、修正液を球場に持ち込んで観戦している。ホームランが出ると、スタンドの補助員からボールが届けられる。
消しゴムで汚れを落とし、小さな文字で約20分かけて、日付、名前、イニング、担当審判員、チームのメンバーなどを書き込み、試合後に選手に渡す。
1934(昭和9)年生まれ。小さい頃から野球が好きで、ラジオで立教大生だった長嶋茂雄さんが東京六大学野球で活躍するのを聴いた。法政大に進学すると、週末は六大学の試合を観戦してスコアをつけては戦術を分析した。卒業後、沖縄に戻って中学校で野球を教えた。甲子園で勝ち上がれない沖縄の球児を「強くしたい」と高校野球に携わり、73年には監督として母校の前原高を春夏連続の甲子園出場に導いた。
ボールへの記入は、高野連の記録員として公式戦でスコアをつけるうち、「本人の手元にも『記録』を残してあげたい」と考えたからだ。県高野連元理事長の安里嗣則さん(77)によると、沖縄では、62(昭和37)年ごろからホームランボールに日付などを記入しているが、高江洲さんほどぎっしり書く人はいないという。
「これは君が打ったボールで、君自身の歴史。この感触を忘れずにがんばって」。高江洲さんは選手にボールを渡す時、必ず一声かける。つらいときには高校時代を思い出してほしいと思い、優勝校の主将や、開会式で選手宣誓する選手にもボールを渡す。「結婚式で披露しました」と、球場にお礼に来た元球児もいるという。高江洲さんがいない球場では、高野連のほかのメンバーがボールに日付などを記入して渡している。
球児へ渡すボールとは別に、自宅には同じ内容を書いたボールを残している。玄関やリビングには、ここ50年の県勢のほぼ全試合の結果などを書き留めたノートも保管する。「沖縄の野球は大先輩たちのおかげでここまで続き、強くなり、全国制覇もした。いつかボールやノートを見てもらって、歴史を知ってほしい」
高江洲さんはこの日、雨のため、那覇市の室内施設、沖縄セルラーパーク那覇であった開会式で球児を見守った。「ボールを渡した後のうれしそうな顔を見ると、ずっと続けなければと思う」。今年も多くのホームランが出ることを期待している。(新屋絵理)