生徒に質問を投げかける山本宗平さん=大阪府高槻市の府立槻の木高校
目が見えない、耳が聞こえない、足が動かせなくても、教壇に立つ――。16人の「障害のある先生」を調査した、立命館大学客員研究員ら3人の研究グループが、本の出版準備を進めている。見えてきたのは「生徒との信頼関係があれば、障害のあるなしは関係ない」ということだった。
ある日の授業。大阪府立槻(つき)の木高校(高槻市)の講義室から英語が聞こえてきた。「じゃあ、ここでmeetの意味は?」。山本宗平さん(38)が生徒約40人に語りかけた。
生まれつき目が見えず、光が分かる程度だ。プロジェクターが黒板代わり。点字訳した手製の教科書を指でなぞりながら、教室を白杖(はくじょう)なしで歩き、生徒の声に耳を傾ける。「声を聞けば授業の様子も分かる。『見えないから』と居眠りしないよう、なるべく生徒を当てています」と笑う。
京都市出身。親の方針で盲学校ではなく地域の学校に進んだ。神戸大学で「せっかくの視覚障害。自分の生き方を多くの人に知ってほしい」と考え、2003年度から高校教師に。学級担任の経験もある。
10年ほど前、小テストでカンニングした生徒がいた。別の先生に監視してもらうなどカンニングできない状況を作ることもできた。だが生徒と正面から向き合い、「自分のためにもならないし、同級生に対してひきょうだからダメなんや」と伝えた。「信頼関係があればカンニングは起きない。この指導は僕にしかできなかったし、思いは伝わったと思う」
避難訓練で「先生、逃げられるんですか」と尋ねてきた生徒が、校庭まで連れ出してくれたこともあった。「目の見える教員とやり方が違うからこそ、彼らが体験できることがある」。生徒が社会に出たとき、自分の存在が生きるヒントになればと思う。
■「私だからできることが…