茶室の再現に施された「技」
都会にいながら、山中にいるような静寂を味わえる「市中の山居」。21日に開館する中之島香雪美術館(大阪市北区)は、この言葉をテーマに掲げる。伝統の技とデジタル技術でその理想を体現したのが常設展示の茶室「中之島玄庵(げんなん)」だ。神戸・御影にある重要文化財の茶室「玄庵」を、周囲の情景も含め再現した。
草木に囲まれてたたずむ、かやぶき屋根の茶室。そこから生えているかのようにぴったり接合された柱など、細部に匠(たくみ)の技が光る。
玄庵は茶道藪内(やぶのうち)流家元の茶室「燕庵(えんなん)」の写し。藪内流では、茶室の写しには、本歌(もととなる茶室)に忠実であることが求められる。施工したのは元禄元(1688)年創業の安井杢(やすいもく)工務店(京都府向日市)。統括室企画営業担当の近藤英一さん(79)は「竹の節の位置や数まで全部そろえた」という。太さや木目の違う材木を比べながらできるだけ玄庵と近いものを選び、掛け軸や花入れをかける役釘も位置や角度を合わせた。
ビル内の作業スペースが限られているため、別の場所で仮組みしたうえで、パーツを運び込んだ。屋根のかやは、たたいて圧縮しているため、実際の量は目に見える分の数倍ある。その茅も一度に全部は運び込めないため、複数回に分けて運んだ。虫がわいてしまうと、ほかの美術品にも被害が及ぶため、畳や建具、柱など、すべての資材に念入りに防虫加工を施した。
茶室の土壁は取り外しができ、内部のしつらえが外から見える。「大工が細部までこだわった仕事は工芸品のよう。茶室の中をじっくり見られる貴重な施設」と工務工事長の中田成之(なりゆき)さん(52)。
設計・監修を担当した京都伝統建築技術協会理事長の中村昌生(まさお)さん(90)=京都工芸繊維大学名誉教授=は「古田織部の創意工夫があふれた茶室。都心のビルに再現するというのは画期的な発想で、美術館を訪れる人にとっても大きな魅力になるのでは」と話す。
茶室を取り囲む壁には、御影の四季を表現したCG映像が投影されている。満開の桜、青々とした緑、紅葉する木々など、映像は刻々と移り変わり、季節によって異なる茶室の表情を楽しめる。
周囲の露地は中根庭園研究所が監修し、乃村工藝社が施工した。美術館内のため実際の植物は持ち込めず、木や苔(こけ)は人工物だが、自然に囲まれた玄庵の雰囲気が伝わるように工夫され、軒下の苔が雨ではがれた様子まで再現されている。
中之島香雪美術館(中之島フェスティバルタワー・ウエスト4階、06・6210・3766)は21日午前10時開館。一般900円など。(松本紗知)
◇
《玄庵》 朝日新聞の創業者・村山龍平(りょうへい、1850~1933)の自邸敷地内に、1911年につくられた。燕庵は桃山時代の武将で茶人だった古田織部が考案し、藪内流の初代・藪内剣仲(けんちゅう)に譲った茶室。藪内家を象徴する燕庵を写すことは、免許皆伝をうけた者だけに許されており、村山が玄庵を建てられたのは、破格の扱いだったという。中之島玄庵は写しの写しということになる。