さいたま市内の認可外保育園の存続を求める署名に協力した複数の人に昨年、同市の一部を選挙区とする自民党衆院議員で厚生労働副大臣の牧原秀樹氏(比例北関東)から、保育園存続決定を報告するはがきが届いていたことが、関係者への取材でわかった。署名の情報が使われたのではないかとの声が上がっている。
署名は、牧原氏の選挙区、埼玉5区内の認可外保育園が2017年3月末の閉園を決めたことに対し、継続を求める保護者らが呼びかけた。16年12月、約1万人分が清水勇人市長宛てに提出された。市によると、保育園運営者はその後、新設する小規模の認可保育園に併設する形で認可外保育園を続けることにし、17年8月末、市が計画を承認した。
牧原氏は署名を市長に提出する際に紹介者として名前を連ねた。署名用紙には、個人情報を要望提出以外に使わないとの説明があった。
複数の関係者によると、17年10月ごろ、署名をした人に、牧原氏から「保育園存続についてのご報告」というはがきが届いたという。「年金・子育て・介護を守り抜く活動を今後も続けてまいります」などと記されていた。同月公示された衆院選の直前で、市内の女性(39)は「なぜはがきが来るのか。気持ち悪かった」。別の男性(64)は「選挙活動と感じた」と話す。署名集めに関わった一人は「提出以外の目的には使わないということで集めたのに。『政治活動に使われるならこれからは協力できない』と言う人もいた」と困惑する。
個人情報保護法は、個人情報取扱事業者による本人の同意なしの第三者への提供を禁じるが、政治団体による政治活動は適用外。
牧原氏の事務所は朝日新聞の取材に「保育園の存続に関して陳情を受けた方々に結果報告させていただいたもので選挙に関するものではない」などとしたが、住所などを入手した経緯について回答はない。牧原氏は3月30日の衆院厚生労働委員会で事実関係を聞かれ「署名を集めたPTA関係の承認と依頼を受けて出してくれとお願いをされたもの」と答弁している。
松本正生・埼玉大教授(政治学)は「住所氏名をどういう経緯で入手したか説明すべきではないか。特定分野に関心がある人を選び、自身の活動をアピールするのは、ネットのターゲティング広告と同じ。姿勢としても違和感がある」と指摘している。(増田愛子)