生前の田中忠三郎さん。手にはつぎはぎだらけのボロ=2011年、青森市筒井
野良着や古布など、「ぼろ」と呼ばれる古い衣類や民具を展示する東京・浅草の私設美術館が、建物の老朽化に伴って今年度末で閉館する。1500点余りの展示品のなかには、黒沢明監督の映画に提供された衣類も。その魅力を知る人たちから、惜しむ声があがっている。
端切れを縫い合わせたシャツ、貴重だった綿の代わりに麻くずを詰めた丹前のような寝具、お産の際に床に敷いた布……。浅草寺の隣に2009年にオープンした「アミューズミュージアム」の展示の中心は、13年に亡くなった青森県の歴史民俗研究家、田中忠三郎さんが収集した「ぼろ」だ。「こぎん刺し」や「菱(ひし)刺し」といった伝統的な刺し子の技法で補強・装飾され、国の重要有形民俗文化財に登録されている衣類もある。
田中さんは20代から晩年まで県内の集落を訪ね歩き、衣類や民具約2万点を集めた。黒沢監督の依頼で、映画「夢」(1990年)の撮影に衣類約300点を提供したこともある。
補修を重ね、何代にもわたって使われたぼろは、貧しさから生まれた「恥ずかしいもの」という認識が地元では強く、その存在や着用背景が広く知られる機会を得られないまま眠っていた。東京に美術館ができたのは、浅草を拠点にした新事業を検討していた大手芸能事務所「アミューズ」の大里洋吉会長(71)が青森出身だった縁からだ。
アミューズでタレントのマネジャーやイベント運営を手がけ、浅草の事業を担当することになっていた辰巳清さん(50)が大里さんを通じて田中さんの収集を知った。倉庫にうずたかく積まれたぼろを目の当たりにして「かっこいい。眠らせておくのはもったいない」。自ら館長に就き、美術館を開くことになった。
美術館では来館者がぼろを実際に手にとれる形で展示。素材の異なる関西のぼろもある。田中さんが伝え聞いた着用時の状況や習俗も、パネルで展示した。
辰巳館長は「訪日客の増加も追い風に、館全体ではなんとかビジネスとして成り立っている」。だが建物が築50年を超えたため、建て直しにかかる時間も考慮し、売却して別の形でぼろの展示を続ける道を探ることにした。移転や国内外での巡回展などの形を検討しているという。
ぼろに影響を受けた作家は少な…