2年後に迫った東京五輪で、観戦客の増加に東京の鉄道網は耐えられるのか。答えはNOだ。現状のまま対策を取らなければ、競技が集中する日の朝、都心部で同時多発的に電車が止まり、大混乱に陥るという試算が明らかになった。多くの乗換駅で、構内に乗客があふれて身動きできなくなり、乗り降りが滞って、電車がホームで立ち往生してしまうためだ。だが悲観する必要はない。時差出勤や休日の振り替え、テレワークで通勤客を2~3割減らせれば、十分に対処できるという。
衝撃的な試算を出したのは、中央大学理工学部教授の田口東(あずま)さん(66)。数理モデルを使って実社会の課題を計算する専門家だ。通勤電車の遅延計算モデルを構築し、東急田園都市線は朝のラッシュ時に各駅停車だけを走らせた方が遅延が減ると予測。東急は2年後に急行の運転を一部区間でやめた。東日本大震災では、被災地の市域を越えて接続がよくて使いやすい路線バスのダイヤを提案した。こうした実学研究が評価され、所属する日本オペレーションズ・リサーチ学会で昨年、最高賞を受けている。
首都圏の通勤・通学の鉄道利用者は1日約800万人。最も競技が多い日の観客は66万人で、乗客が1割弱増える、田口さんは、国土交通省の大都市交通センサスを基に、首都圏全体でふだん乗客がどう移動し、それぞれの電車がどれくらい混雑しているかを示したうえで、五輪の観戦客を上乗せした。すると、五輪客の約60%をJRが、15%程度を地下鉄が運び、午前6~9時の間、乗車率200%以上の電車が50%増えるという予測が出た。
電車の混雑以上に問題になるのは、不慣れな五輪客を含む大量の乗客が複雑に動き回る乗換駅だ。田口さんは、50の乗換駅で、朝7時から9時にかけて駅構内に何人が滞留するかを1分ごとに計算した。その結果、通勤・通学のラッシュのピークと観戦客輸送のピークが重なり、表②のように、山手線とその周辺の実に13もの駅で、滞留客がふだんの2倍を超える。新木場が最悪なのは、乗換駅と会場の最寄り駅という両者の性格を持つからだ。このほか、恵比寿はいつもの1・3倍、新橋、飯田橋、市ケ谷、品川、門前仲町、池袋が1・2倍の客であふれる。
ラッシュ時にホーム、階段、通…