英国の欧州連合(EU)からの離脱交渉が26日、ブリュッセルであった。EU側は英国が新たに示した、モノの取引に限定した英・EU間の「自由貿易圏」をつくる案に難色を示した。交渉の実質期限は10月に迫る。貿易のルールなどの関係が決まらないまま来年3月に離脱し、混乱を招く「無秩序離脱」への懸念が次第に高まっている。
交渉で最大の障害になっているのは、英領北アイルランドと陸続きのEU加盟国であるアイルランドとの国境管理の問題だ。英・EUは離脱後も厳しい国境管理を行わないことで一致しているが、具体的な管理方法で対立している。
EUはこれまで、北アイルランドをEUとの貿易に関税がかからない「関税同盟」にとどめることを提案。英側は「国内に事実上の国境を作るもの」と反発していた。ただ、英国は12日、EUのルールから丸ごと抜ける「強硬離脱」から、穏健な離脱路線にかじを切り、自由貿易圏構想など、北アイルランドを含む英国全体を実質的に関税同盟にとどめる新しい方針を発表した。
だが、EUのバルニエ首席交渉官は26日の英国との交渉で、「英側の提案は、EUの共通の商業政策や規制の整合性にリスクをもたらす」と指摘。「モノ、人、サービス、資本の移動の自由」を不可分とする、EUの基本理念に反する懸念をなくすため、英国にさらなる解決策の提示を促した。次の交渉は8月半ばに開かれる。
両者は10月のEU首脳会議で離脱協定の合意を目指すが、見通しは厳しさを増している。EUは19日、英国以外の加盟27カ国に、合意できずに離脱した場合の備えを加速するよう要請。英国のメイ首相も、国内の強硬離脱派への配慮などから、「悪い合意なら合意なしの方がまし」との姿勢を崩していない。ただ、「無秩序離脱」が現実となれば、関税が復活して部品供給網を直撃し、物流が混乱するなど、双方の経済に大打撃となる可能性が高い。これを避けるため、互いにどこまで妥協できるかギリギリまで探り合いが続きそうだ。(ブリュッセル=津阪直樹、ロンドン=下司佳代子)