滋賀医大病院(大津市)の泌尿器科准教授が、自らが未経験だと説明せずに前立腺がんの放射線治療をしようとしたとして、患者ら4人が准教授と治療をさせようとした教授を相手取り、慰謝料を求める民事訴訟を近く起こす。「自己決定に必要な説明を医師から受けられずに精神的苦痛を被った」としている。
医療安全の規制が強化される中、今回の訴訟は医師の治療経験を患者が治療法を決める際に必要な情報とし、提供を怠った医師の説明義務違反を問うものだ。
患者の代理人によると、准教授が計画していたのは、微弱な放射線源を前立腺に入れる「小線源治療」。同病院では泌尿器科講師が2005年に開始。この医師が米国の拠点施設で始められた治療法を発展させた独自の技法を開発し、15年1月に小線源治療に特化した寄付講座の特任教授に就任し、年間約140件行っている。
泌尿器科教授と准教授は15年春ごろから、特任教授とは別に小線源治療を計画。この治療を希望した患者で紹介状に特任教授や寄付講座の名がない20人余りを特任教授に回さず、小線源治療の経験がない准教授の担当とした。
小線源治療の習得には指導医の下での研修が必要とされるが、准教授は特任教授から治療に必要な技術などを学ぼうとはしなかったという。特任教授は准教授が治療すれば患者に深刻な不利益を与えると考え、15年11月に学長に治療の中止を求め、准教授の患者は特任教授が担当することになった。
16年秋に准教授の小線源治療を受ける予定だった男性(75)は未経験であるとの説明を受けておらず、16年1月に准教授による小線源治療の中止が決まった後もただちに知らされなかったという。
16年5月に初めて特任教授の診察を受けた際、約10カ月に及ぶホルモン療法で前立腺が縮んでしまい、治療に必要十分な小線源を埋め込むことができないと告げられた。その後、特任教授による小線源治療と、放射線の外部照射を受けた。
男性は病院の対応に疑問を持ち、病院長らに文書で質問を繰り返したが、病院側から謝罪の言葉はなく、納得がいく説明も得られなかったという。男性は「必要な説明をせず、患者の人権をないがしろにした医師の責任を問いたい」と話す。
滋賀医大は朝日新聞の取材に、「泌尿器科の専門医であれば、経験のある医師の指導の下に行えば問題ない」と文書で回答した。
病院は昨年12月、寄付講座を19年末で閉鎖することを公表。特任教授の雇用任期も同時に終了する。患者らは今年6月、患者会(会員約300人)を結成。未経験医師による治療計画や寄付講座閉鎖についての説明会開催を学長らに求めているが、大学側は応じていない。(出河雅彦)
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〈前立腺がんの小線源治療〉 非常に弱い放射線を出す線源を前立腺内に入れ、がん細胞を死滅させる治療法。下半身に麻酔をかけ、前立腺内に針を刺し、放射性ヨウ素が密封されたチタン製カプセル(長さ4・5ミリ、直径0・8ミリ)を50~100個挿入する。治療は数日間の入院で済み、手術に比べて体の負担が軽く、治療後も性機能が維持されやすい。日本では2003年に始まり、現在100を超える医療機関で年間約3千件が行われている。
直腸や尿道への放射線の影響を避けながら、がん細胞の場所や形、大きさに応じて最も効果的な線量分布となるよう線源を配置する手技の習得には指導医の下での一定の研修が必要とされる。過去には誤挿入による事故も報告されている。