山崎賢弘さんらが乗っていた車=22日、広島市安芸区矢野町、茶井祐輝撮影
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西日本を襲った豪雨で、広島県警に勤務する山崎賢弘(かつひろ)さん(29)は、帰宅途中に災害現場に遭遇し、住民を避難させる途中で土砂に流されて死亡した。母の美智子さん(59)は、息子が警察官の仕事を全うしたという思いと、我が子を失った悲しみのはざまにいる。いまの思いを聞いた。
濁流から住民救った警察官2人、直後に流され行方不明に
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7月6日夜、呉署に勤めていた賢弘さんは同僚の晋川尚人さん(28)と車で広島市の自宅に帰る途中、濁流にのまれかけていた数台の車を見つけた。晋川さんと住民を避難誘導し、7人の命を救った後、土砂に流されて行方不明になった。
警察官の礼服を着て結婚式を挙げた山崎賢弘さん。礼服を着て式をできることを喜んでいたという=遺族提供
6日の午後7時45分に嫁に電話しとるんよ。「いまから救助せにゃあいけんけえ」いうてね。なにもあんな雨の激しい日に、家に帰らんでもええのに。まだ娘が9カ月じゃけえ、会いたかったんじゃろうねえ。
広島市に入って、安芸区の県道で土砂が怖くて立ち往生しとる車がおってね。窓をたたいて、「呉署の警察官です」って避難を誘導したんよ。
勤務時間外なんじゃけえ、出て行かんでもええのに。でも生還者がおったけえ、賢弘の最期がある程度わかって、ありがたい気持ちもあるんよ。
山崎賢弘さんらが乗っていた車=22日、広島市安芸区矢野町、茶井祐輝撮影
それに賢弘の性格じゃったら、出ていかんで自分が生き残っとったら、一生後悔しとるじゃろうけえ。自分だけが逃げられる性格じゃない思うよ。
賢弘さんは、4人きょうだいの3番目。大学を卒業するまで実家から通った。きょうだいの中でも両親と最も長く過ごしてきた。
山崎賢弘さんが住民を避難誘導した現場の近く。道路が寸断されていた=22日、広島市安芸区矢野町、茶井祐輝撮影
三つか四つのころじゃったか、親戚で集まっても、賢弘はすすすっと親戚に近づいていって、にっと笑って和ませとったんよ。いい笑顔しとったね。
一緒におって心が落ち着いたし、歩いとったら荷物を持ってくれて。彼女に弁当つくって、「交換するんじゃあ」言うとったこともあったね。この子の彼女になる人は幸せじゃと思っとった。
「お母さん、いま遊ばんかったらいつ遊ぶん」って言うて、高校や大学では部活でバドミントンやったりして遊んどった。でも家事とか草刈りとか頼んでも、たいぎい(面倒くさい)のうとか言わず、わかったって言って手伝うてくれたんよ。
山崎賢弘さんの遺体が見つかった現場近く。避難誘導をした場所から400メートルほど離れていた=22日、広島市安芸区矢野町、茶井祐輝撮影
2011年に警察官になった。その後も賢弘さんは頻繁に実家に顔を見せた。
警察官になるって聞いたときは正直、危ないけえやめときんさいやって思うたんよ。どうしても命を張ったりする仕事じゃけえね。じゃけど警察官になって、仕事が嫌とか一回も言うたことなかった。
「今日、こんなことがあったんよ」って、よう話してくれたんよ。交通課におってね。事故現場とか行ってあたふたしとる人がおってもなだめてから、「こんなに親切にしてもろうたことはない」とか言われたって言うとったね。
山崎賢弘さんが被災当日に持っていた遺品。発見当初は泥まみれだったものを、汚れを落とした=広島県東広島市
6年くらい前には、保護された犬を段ボール箱に入れて持って帰って、「かわいそうじゃけえ、飼っちゃってえや。明日には保健所に行ってしまうんよ」って言ってきてね。
何でか優しい子じゃったねえ。困っとるもんを見捨てられんかったね。走馬灯のように思い出すねえ。
山崎賢弘さんの遺体が見つかった現場。避難誘導をした場所から400メートルほど離れていた=22日、広島市安芸区矢野町、茶井祐輝撮影
賢弘さんと最後に会ったのは、昨年の暮れだった。
娘ができてからは、忙しいじゃろうけえ、あんまり連絡しとらんかったんよ。連絡したら賢弘は心配して帰って来る思うたけえね。
それでも6月20日には、お父さんが「手伝いに来てくれんかね」ってメールしてね。別に手伝って欲しかったわけじゃないんじゃけど、たまには野菜を渡したい思うてね。口実よね。ほいでも忙しかったみたいで会えんかったけどね。
山崎賢弘さんの遺体が見つかった現場。避難誘導をした場所から400メートルほど離れていた=22日、広島市安芸区矢野町、茶井祐輝撮影
賢弘さんは昨年7月16日に結婚式を挙げた。1年後の同じ日に、遺体は見つかった。
五体満足で帰って来てくれたんは、せめてもの救いじゃった。遺体に対面したときは、私のところに生まれてきてくれてありがとう、母さん幸せじゃったよ、寂しいけど、悲しいけどって言うたんよ。私の方が幸せをもろうた思う。
あの子は最後に、あそこで仕事せんといけんかったんよねって、思うことにしとる。7人も助けてよう頑張ったねって、褒めてあげたいんよ。現世は三十年じゃったけど、人助けしたんじゃけえ、来世はいいところで生まれてくれるはず。
じゃけどね、三十までの命じゃいうて、神様に送り出されたとでも思わんと、割り切れんよ。親としてはね。そうやって、寂しさを小さくするしかないんよ。(茶井祐輝)
◇
呉署交通課の山崎賢弘さんと同僚の晋川尚人さんは、ともに避難誘導中に流され、晋川さんは18日に死亡が確認された。2人は巡査長で、6日付で警部補に2階級特進した。
警察庁によると、今回の豪雨の死者は全国で224人にのぼる。