日本原子力研究開発機構が、79施設の廃止費用の試算を初めて明らかにした。戦後日本の原子力研究が始まってから60年余り。商業用の原発に続き、研究炉も大量の廃炉時代を迎える。
原子力施設の廃止費用1.9兆円 さらに膨らむ恐れも
被爆者は今、核兵器と人類の関係は…核といのちを考える
廃炉作業を待つ原子力機構の材料試験炉JMTR(茨城県大洗町、5万キロワット)。ドーム状の建屋内にあるプールに、原子炉や使用済み核燃料が沈んでいた。水温は約16度に保たれ、運転員が見張る。「どんな場合でも水を確保しなければなりません」と担当者。2006年に運転を止めてから稼働していないが、年間で億単位の維持費がかかっている。今年度は約15億円という。
JMTRは1968年に初臨界。原子炉の材料や核燃料に中性子をあて耐久性などを確かめる研究で商業炉の開発に貢献し、「原子炉をつくるための原子炉」と呼ばれた。
老朽化のため07年から約170億円を投じて改修工事を進めたが、11年6月に予定した再稼働前に東京電力福島第一原発事故が起きた。強化された新規制基準に対応するには、さらに約400億円の補強工事などが必要になり、原子力機構は再稼働を断念。廃炉は20年間を要し、費用は約180億円と試算される。廃止が長引けばその間の維持費もかさむ。門馬利行バックエンド統括部長は「廃止が進まないと維持費が無駄にかかる。早めにやりたい」と話す。
専門家や電力業界からは、長期間の廃炉を担う人材育成や安全研究の継続に支障がでると懸念する声もある。日本学術会議の分科会は今年8月、JMTRの後継炉を求める提言をまとめた。原子力機構は近く後継炉の建設に向けた検討を始めるが、予算のめどは立っていない。東京大学の山口彰教授(原子力工学)は「国に予算を求めるだけではなく、研究炉の外部利用を広げて収益を上げるなど、財源の確保に向けて知恵を絞る余地はまだある」と話す。(小川裕介)