国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のノーベル平和賞受賞から10日で1年になるのを前に、朝日新聞は各地の被爆者にメールでアンケートをした。核なき世界へ進んでいると考える人は2割に満たず、日本政府が被爆国の役割を果たしていないと思う人が9割を超えた。
被爆者は今、核兵器と人類の関係は…核といのちを考える
被爆70年の2015年に実施した被爆者アンケートの回答者(5762人)のうち、メールで連絡がとれる132人に意見を聞き、61人から回答を得た。
ICANが取り組んだ核兵器禁止条約は昨年7月に国連で採択されたが、核兵器保有国や核の傘の下にいる国は反対したままだ。米国のトランプ大統領は10月に中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を表明した。この1年で世界は核兵器廃絶に進んだと「思わない」人が44人で7割を超えた。「あの盛り上がりからまだ1年なのに、遠いことのように忘れられている感じがする」。広島市の竹内貴美子さん(72)は危機感をにじませる。
「進んだ」と考える人も11人いた。長崎で被爆した東京都杉並区の吉田一人さん(86)は核禁条約の前文に「ヒバクシャ」と明記されたことを評価し、「ICANのノーベル賞受賞は、世界の目をヒロシマ・ナガサキに向けさせる大きな契機になった」と歓迎する。
日本政府は核禁条約には参加せず、核兵器保有国と非保有国の「橋渡し役」になるとの立場だ。5日の国連総会では、核禁条約の署名と批准を求める決議に、核兵器保有国とともに反対。だが、日本が出した核兵器廃絶決議案は採択されたものの、核保有国の米国などの賛同は得られず、核禁条約への言及がないため主な条約批准国も棄権した。ほとんどの被爆者は日本政府の姿勢に不満を抱いている。「被爆国として期待される役割を果たしていると思うか」の問いには「どちらでもない」の2人をのぞく59人が「思わない」と答えた。
長崎で被爆し、熊本市に住む郡家徳郎さん(89)は「米国の核兵器に守られている立場から核禁条約に加入しないのは、被爆国政府として残念で、恥ずべきことであり、人道的にも許されない」と憤る。広島市の新井俊一郎さん(87)も「唯一の被爆国だからこそ、核兵器を無くせ、と堂々と主張する権利と義務がある」と訴える。
核禁条約は50カ国の批准で発効するが、現在は19カ国にとどまっている。アンケートでは、「市民運動がすべきこと、市民運動のあり方として必要なこと」を自由記述で聞いた。
広島県東広島市の飯田国彦さん(76)は「被爆者団体はICANに全面的に協力すべきだ。最後の力を振り絞って、原爆の真の悲惨さを伝えていかなければならない」とする。
長崎の被爆者たちは「ICANサポート・ナガサキ」を今年8月に設立した。呼びかけ人の一人、長崎市の増川雅一さん(77)は「県内の首長・議会に国に批准するよう働きかけることを要請するとともに、市民に対しても条約について広報し、活動への参加をよびかける」と意気込む。
被爆者らが2016年から取り組んでいる核兵器の全面廃絶を求める「ヒバクシャ国際署名」活動をあげる人も目立った。広島で被爆した千葉県野田市の大下克典さん(75)は「核禁条約に関心のない一般の人に、核兵器の怖さ、非人道性をよく理解してもらわなければならない」とした。(大隈崇、東郷隆)
■ICANのキャンペーンコーデ…