欧州連合(EU)の欧州議会選が5月23~26日に実施されるのを前に、EUが「フェイクニュース」の流布に神経をとがらせている。ロシア系メディアなどから、EUにまつわるネガティブな情報が流れており、対応を強めている。
ロシアメディアのスプートニクは9日、「欧州議会は、EU官僚の決定の前に何の力も持たない」などとEUを批判する記事を配信した。EU首脳がルーマニア中部シビウに集まり、欧州議会選に向けて加盟国の結束を訴える宣言を採択した日だった。
この記事にかみついたのが、EUが運営する偽情報検証サイトだ。「欧州議会の同意なしに法律を作ることはできない」などと、EUの仕組みを説明した上で反論。記事を「『機能障害のEU』というお決まりの語り口による偽情報だ」と断じた。
検証サイトは、ロシアによる「偽情報キャンペーン」に対抗しようと、2015年に作られた。欧州議会選を控え、「米国は欧州に核兵器を使おうとしている」などとあおるロシア系メディアに、連日のように反論している。
フランスでは昨年12月、フェイクニュース対策法が制定された。選挙の結果をゆがめるような偽情報と判断された場合、情報が広がらないような措置を裁判官が命じられると定めたものだ。親EUのマクロン大統領が主導した。
ただ、同法に基づき初めて訴えられたのは、「身内」であるカスタネール内相だった。メーデーの5月1日に、反政府運動を続けるジレジョーヌ(黄色いベスト)の人々らがパリ市内の病院敷地に入ったのを、「病院が襲われ、スタッフが暴行を受けた」とツイートしたことが発端だ。実際は治安当局の催涙ガスからデモ参加者が避難しようとしたもので、フランス共産党の候補者がツイートの削除を訴えた。
パリの裁判所は17日、「内相の発言は大げさだが、すでに多くのメディアが(実際に起きたことを)報じており、情報操作のリスクは少ない」として退けた。
フランスでは、ことあるごとに出回るフェイクニュースが社会問題化している。4月、パリのノートルダム大聖堂で火災が発生した直後には、黄色いベストを着た人物が塔を歩いている動画がソーシャルネット上に拡散し、「放火では」などの臆測が出回った。このときは、AFP通信が事実の検証サイトで「消防士だ」と打ち消した。(パリ=疋田多揚)