朝日新聞GLOBE編集長やパリ支局長を歴任した国末憲人記者が、欧州議会選の意味を読み解きます。
23日に投票が始まった欧州議会選は、西洋政治史の一つの岐路になるかも知れない。欧州連合(EU)の政治を長年担ってきた中道右派のキリスト教民主主義(キリ民)勢力が後退し、影響力を大幅に失う可能性があるからだ。彼らが掲げてきた欧州統合の理念に代わり、ナショナリズムがEUレベルでも発言権を高める時代が到来するか。懸念の声も上がっている。
欧州では18~19世紀、国家と教会が激しく対立したが、カトリック信者の間から19世紀末、政治参加を目指す穏健な運動が芽生えた。この流れは戦後、独仏伊などでキリスト教民主主義政党の結成に結びつき、ファシズムや共産主義に批判的な市民を結集した。
細部を問わず結集
その中心になった政治家らには国家にこだわる意識が薄く、欧州統合の原動力としても活躍した。1952年の欧州石炭鉄鋼共同体設立にかかわったシューマン仏外相やアデナウアー独首相は、いずれもキリ民の出身だ。
「彼らは理念を共有するだけでなく、戦前から個人同士の密接な付き合いを続けていました。もともと、気心が知れた関係だったのです」
欧州各国のキリ民勢力の歴史に詳しい関西大学の土倉莞爾名誉教授(西洋政治研究)はこう説明する。欧州統合が初期の段階で「カトリック連合」の様相を見せていたことは、プロテスタント中心の英国が加わらなかった一つの要因だともいわれる。
以後、この勢力は各国間で連携しつつ欧州政治に深くかかわり、EUが発足した後も組織の要職を占めた。特に90年代、政策の細部の差異を問わず広く結集する戦略で勢力の拡大に努めたのが、キリ民出身のコール独首相だった。日本の自民党にも共通する手法。「この拡大のお陰で、彼らはどこにも負けないネットワークを構築した。それは、メルケル独首相のEUでの力の源泉にもなった」と、英フィナンシャル・タイムズ紙は分析する。
その結果、EUの首相にあたる欧州委員長も95年以降、サンテール氏(ルクセンブルク)、プロディ氏(イタリア)、バローゾ氏(ポルトガル)、ユンケル氏(ルクセンブルク)と、一貫してキリ民出身者が務めるに至った。中道右派と中道左派を結集したフランスのマクロン現大統領も、この流れに沿った政治家だと、土倉名誉教授は見る。
ハンガリーが鍵を握る
ただ、キリ民勢力の衰退は以前から目立っていた。土倉名誉教授によると、以下の要素が作用しているという。
①宗…