部員数減少に表れた“野球離れ”は高校生だけではない。2018年度、スポーツ少年団に加入している群馬県内の少年軟式野球の選手数は4576人で、10年間で3割減。チーム数も2割減。少子化以上のペースで少年野球の輪はしぼむ。長い拘束時間、保護者が求められる負担、投げすぎによる体の故障……。未来の高校球児の芽を摘みかねない課題に向き合い、これまでの指導法やチーム運営を見直そうという動きがある。
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6月上旬の土曜日、利根川を挟んだ群馬県庁の向かいにあるグラウンドに、Tシャツやジャージー姿の小学生が集まった。試合形式の練習でも初球からフルスイング。ゴロをトンネルしてもコーチたちは細かな指導をしない。「育成重視」を掲げる中学硬式野球チーム「前橋中央ボーイズ」などを運営するNPO「前橋中央硬式野球倶楽部」がこの春開設した小学部チームだ。
硬式、軟式を織り交ぜ、テニスボールも使う。練習は原則土、日の午前中だけで、保護者の負担が少ないことも特長。お茶出しや車の手配など少年野球チームに目立つ当番はなく、練習場への送り迎え程度に限っている。小学4年生以上の正会員はまだ5人で試合はできないが、低学年の「キッズ」や他チーム所属の小学生も体験に加わり、和気あいあいと練習を楽しむ。
「小学生にはまず野球を好きになってもらうことが大事。勝つことは二の次、三の次です」と、理事長の春原太一さん(45)。20年以上中学生を指導してきた春原さんは、少年野球で投げすぎ、骨の変形などの後遺症が残ることもある「野球ひじ」などになる子どもが後を絶たない現状に警鐘を鳴らす。チームに入る中学生が受けるメディカルチェックでは1割程度が投球を禁止しなければならない状態で、手術を勧められる選手もいる。「体が十分成長していないのに試合が多くあり、勝つことを強く求められてきた結果ではないか」と話す。
同じような問題意識を持った野球指導者らを集めた勉強会を開いたり、少年野球チーム同士で合同練習をしたりして交流を図っている。前橋市の少年野球チーム「桂萱(かいがや)東ファミリーズ」の監督を務める小島岳さん(48)もその一人だ。
10年ほど前まで、休日は朝から日が暮れるまでの練習も当たり前。ミスをすれば厳しく叱ることもあった。口では「野球は楽しむもの」と言っていたが、子どもたちは指導者の顔色をうかがいながらプレーしていたと振り返る。
県内の大会で優勝するなど「結果」は出していた。だが、当時の中心投手が中学校へ進学後にひじの痛みを訴えたのをきっかけに、故障の予防法や指導法を学び直した。「知識もないのに、無理をさせていた」
いまは「遊びの野球」も大切にして活動する。大会では以前ほど勝てないが、一時は十数人だった選手は30人以上に増えた。「のびのびプレーさせることで、チームに活気が出てきた」と手応えを感じる。
春原さんは、少年野球や高校野球などの各団体や指導者が垣根を越えて普及活動や選手の育成について話し合う場が必要と考える。「子どもたちの将来を大人たちが真剣に考えないと、野球の未来はなくなってしまう」(森岡航平)