第101回全国高校野球選手権群馬大会の開幕を前に、一足早く「最後の夏」に臨んだ高校球児がいる。「夏の大会でベンチに入れない3年生にも晴れ舞台を」。そんな思いから前橋工の五十嵐卓也監督が前橋商の住吉信篤監督に持ちかけ、5年前から続く「引退試合」。今年も2日、前橋市民球場でおこなわれた。
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この夏、ベンチ外の3年生は前橋商が11人、前橋工が5人。引退試合にはレギュラーの3年生らを加えてチームを組み、臨んだ。
午後5時プレーボールの試合は序盤、前橋工がリード。四回以降は前橋商の打線が勢いづいてヒットを量産、小刻みに加点した。
やがて梅雨の合間の薄日も暮れ、球場の照明には試合途中から灯がともった。ゲームセットに近づいた八回裏。前橋商の富沢一平君が打席に入った。前橋工のマウンドには、同じ中学でプレーした鈴木聖弥君が立っていた。
鈴木君の落ちる変化球。富沢君が思い切り振り抜いた。「バットに球が当たった瞬間、『行った!』と思った」という打球は、放物線を描いて右翼席へ飛び込んだ。高校に入って2本目の本塁打。レギュラーや下級生、保護者らが大勢応援に駆けつけたスタンドが、ひときわ大きな歓声に包まれた。
前橋商が7―4で前橋工を下した試合後、富沢君に鈴木君が近づいてきて、言った。「今までありがとう。完敗だよ」。熱い抱擁を交わし、涙をぬぐった。
この日、両チームの主将を務めた選手の目にも涙があふれた。前橋商の干川大和君は「自分たちは今日が最後だけど、レギュラーの仲間には、ベンチに入れないメンバーの分まで夏の大会を頑張ってほしい」。前橋工の小暮杏介君は「この仲間と戦うのが最後と思うと涙が出てしまって……」と言いつつ、「勝ち負けに関係なく、最後に楽しい試合ができてよかった」と笑みを浮かべた。(松田果穂)