歴史はこれからつくられると考えるなら、米国はまだその場所だ。米国にだけ、車を飛ばそうとしたり、不死を追求したり、感情を持ったロボットを育てようとしたりする人々がいる。しかし、米国の政界は新たなアイデアに対し、驚くほど抵抗する。
ホワイトハウスで開催された科学技術コンペの参加者と談笑するオバマ米大統領(左)(23日、ワシントン)=ロイター
米政府の創造力欠如とその先にある混乱との隔たりは広がりつつある。恐れを知らない新興企業は毎週、科学の商業的可能性を開拓しようとしている。多くは奇抜過ぎて成功しないが、成功に値する企業もいくつかある。そして、毎週のように思えるが、大統領選に誰かが立候補している。2016年の大統領選の候補者のなかには、進んで科学を敵視する者もいる。これまでのところ、どの候補者も米国の問題の改善策について独自のアイデアを示した者はいない。誰かが不相応にも成功するのだろう。
■政府ではへまをするとキャリアが台無し
米国の知力との断絶の根底は文化的なものだ。シリコンバレーでは「より大きな失敗をしろ」がモットーだ。倒産経験はビジネスにおける信用の証しとなる。政府では一つでもへまをすると、キャリアが台無しになる可能性がある。ルース・ポラット氏が先週、最高財務責任者(CFO)を務めたモルガン・スタンレーからグーグルに7000万ドルという大金で移籍したことは、IT(情報技術)業界が金融業界よりも優位になりつつあることの表れである。投資銀行を素通りし、IT業界に就職する米国のトップクラスの卒業生は増えている。あまり知られていないのは、ポラット氏が、オバマ政権から財務副長官のポストを提示されて断ったことだ。上院の指名承認公聴会でずたずたにされるのを同氏は恐れていたのだが、それはおそらく正しかった。
その結果、つまらない者がつまらない者を率いる政権になった。ワシントンには世界の最も多くのシンクタンクが集まっているが、最近は独創的な考え方の欠如が目につく。アイデアに乏しいのは知能指数(IQ)の低さとは関係ない。ワシントン周辺はシリコンバレー以外では最も多くの博士号保持者が集中している。しかし、今後、米政権での仕事を望むなら、そこからは二度と立ち直れないかもしれないほどの厳しい試練を覚悟しなければならない。成功への道は、用心しながら進むことだ。一度でもずれた発言をしたら、あるいはきわどい政策アイデア一つで、将来の可能性を台無しにすることもありうる。米国の技術革新の強みの基は科学技術だが、それを受け入れることは政界ではキャリアの妨げになる恐れがある。共和党の大統領候補者のなかには、地球温暖化は人間がもたらしたという考えを否定する者や、子どものワクチン接種が病気を引き起こしていると信じている者もいる。