国営諫早湾干拓事業(長崎県)の潮受け堤防排水門閉め切りで漁業被害を受けたとして、長崎・佐賀両県の漁業者ら53人が国に開門などを求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁(大工強裁判長)は7日、一審・長崎地裁判決に続き開門請求を退けた。「原告が主張する漁業被害と開門しないこととの因果関係は認められない」と判断、一審が認めた一部漁業者への賠償命令も取り消した。
同事業を巡っては、国に開門調査を命じた福岡高裁の確定判決(2010年12月)と、営農者らの申し立てに「海水流入などによる農業被害は甚大」として開門を差し止めた長崎地裁の仮処分決定(13年11月)がある。
7日の判決が確定しても国の開門義務は消えず、司法判断のねじれが続く。漁業者側は今回の判決を不服として上告する方針で、開門の是非は最高裁で初めて判断される見通しだ。
この日の判決理由で大工裁判長は、タイラギやアサリ漁の被害は認定したが「漁業環境の悪化が開門しないことに起因するとは立証されていない」と指摘。一審判決が認めた漁業者16人への計1億1100万円の賠償命令を取り消した。
判決について、漁業者側の馬奈木昭雄弁護団長は福岡市内で開いた報告集会で「(干拓事業と漁業被害の)因果関係について個別具体的に原告側の立証を裁判所が求めるのは、全国の公害訴訟の中でも極めて異常だ」と批判。「有明海再生を目指し、開門が実現するまで闘う」と述べた。
干拓事業を巡っては、漁業者側と営農者側がそれぞれ間接強制を申し立てたため、国は開門してもしなくても制裁金を支払う事態に陥っている。国が漁業者側に支払った総額は7日時点で2億4480万円に上る。
この日の判決後、林芳正農相は「国は開門と開門禁止の相反する2つの義務を負い、厳しい立場に置かれている。解決に向け関係者間の接点を探る努力を続ける」とのコメントを出した。菅義偉官房長官は7日の記者会見で「最高裁の統一的判断を速やかに求めていくのが第一だ」と述べた。