【モスクワ＝坂口幸裕】モスクワ訪問中の岸田文雄外相は21日、ロシア外務省でラブロフ外相と会談し、昨年１月を最後に中断していた北方領土問題の交渉を再開することで合意した。10月８日にモスクワで外務省次官級協議を実施する。日本から杉山晋輔外務審議官、ロシアからモルグロフ外務次官が出席する。

会談後の共同記者会見で握手する岸田外相（左）とラブロフ外相（21日、モスクワ）＝ロイター

両外相は、日ロ両首脳が昨年11月に合意したプーチン大統領の年内来日の実現に向けた調整を続けることで一致した。岸田氏は会談後の共同記者会見で「今回の会談は日ロ関係を一歩前に進め、プーチン氏の訪日につなげるうえで有意義なものになった」と表明。ラブロフ氏は「（来日日程に関する日本の）提案を検討する用意がある」と前向きな考えを示した。

会談では、国際会議の場を利用した首脳会談の開催を申し合わせた。岸田氏は「国際会議などの機会を積極的に活用し、首脳、外相の対話を継続していくことを確認した」と語った。ラブロフ氏は、11月の20カ国・地域（Ｇ20）首脳会議やアジア太平洋経済協力会議（ＡＰＥＣ）首脳会合で日ロ首脳会談が実現するとの見通しを示した。

22日には岸田氏とシュワロフ第１副首相が共同議長を務める「貿易経済に関する政府間委員会」を開く。同委員会は閣僚級が経済問題全般を話し合う唯一の場で、約３年ぶりの開催となる。岸田氏には、ロシア側が強く求めてきた日本の民間企業の幹部が同行した。

ロシアにとっては開発が遅れる極東に日本の投資を呼び込み、地域で経済力を高める中国に過度に依存するのを避ける思惑がある。「原油安や日米欧の経済制裁などロシアを取り巻く状況は極めて厳しい」（外務省関係者）とみられる。プーチン政権は極東開発を最重要課題の１つと位置づけており、政府間委員会で具体的な協力事業について協議したい考えだ。

安倍晋三首相はロシアとの領土問題の解決と平和条約の締結に強い意欲を示しており、ロシア側が期待する日本企業の投資など経済関係の強化をテコに領土問題を進めたい意向だ。日本側は、今回の岸田氏の訪ロを領土問題の進展へ対話を活性化させる足がかりにしたい考えだ。

最近、ロシアは日本への揺さぶりを強めている。首相や閣僚らが相次ぎ北方領土を訪問。ロシア外務省は北方四島は第２次世界大戦の結果、ロシア領になったと主張する。日ロ首脳は13年４月に「双方に受け入れ可能な形で最終的に解決する」と盛った共同声明を発表しており、岸田氏は「解決策を作成する議論を行っていく必要がある」と述べた。

▼北方領土問題 1945年８～９月にソ連軍が千島列島を南下して択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の北方四島を侵攻し、現在も占拠している問題。56年の日ソ共同宣言には、平和条約の締結後に色丹島と歯舞群島を引き渡すと明記。４島の帰属は未解決で平和条約はまだ締結されていない。日本政府は４島の帰属が確認されれば返還時期や方法は柔軟に対応する方針だ。