2013年以降、マイケル・デル氏はウォール街のアクティビスト(物言う株主)やフィナンシャル(金融)エンジニアのやり方にほとんど敬意を表していない。自らの名前を冠したパソコンメーカーにMBO(経営陣が参加する買収)を行って株式を非公開化した年だ。
ニューヨーク証券取引所(NYSE)にあるEMCの表示(12日)=AP
長期的には企業価値を高めるかもしれないが、その間は利益を押し下げる事業建て直しの取り組みを公開市場の投資家たちは支持したがらないと、同氏は述べている。
しかし、ストレージ(外部記憶装置)大手EMCを637億ドル(約7兆6200億円)で買収するという提案がもし成功すれば、デル氏はハイテク業界史上最も大胆な部類に入る金融エンジニアリングを見事にやってのけたことになる。デル氏はこれで、多額の債務と、少なくとも上場企業3社の経営権を手にすることになる。
■型破りな「裏口IPO」
そして一つ、意外な展開がある。デル氏は業界史上最大の買収案件を成功させるために、この計画に詳しい人物が「裏口IPO(新規株式公開)」と呼ぶ手法を通じて自分の会社全体を再上場することを提案しているのだ。
EMCの事業の巨大さ、そして「フェデレーション(連合)」と称されるグループ企業とのつながりの緩やかさゆえに、デル氏はそんな型破りなフィナンシャルエンジニアリングの手法を検討せざるを得なくなったが、そうでなければ得られなかったようなチャンスも手にした。
EMC買収には470億ドルの現金が必要になり、デル氏は400億ドルを超える借入枠を銀行に設定している。また、この買収の条件に詳しいある人物によれば、デル氏はプライベートエクイティファンドのシルバーレイク・パートナーズやシンガポールの投資会社テマセク(いずれも2年前のデルのMBOを後押しした)とともに、今回の買収支援のために合計で約40億ドルの出資を行う。買収後のデル氏の出資比率は約70%で、現在のデルでのそれと変わらないという。
独立系の株式アナリスト、パトリック・ムーアヘッド氏によれば、大企業が自前のデータセンターで稼働させるシステムの販売というEMCの成熟したストレージ事業から生み出される現金は、向こう3~5年間の債務返済に貢献するのに十分な規模になるという。
デルは、EMCの買収が完了する前に多額のジャンク債を発行して100億~150億ドルの銀行債務を借り換える準備をする。その後もジャンク債を発行しながら銀行融資を返済していく見込みだ。
デル氏は多額の借入金の扱いがうまい。パソコンメーカーのデルを250億ドルで買収する際に借りた資金のうち44億ドルは返済済みで、これを受けて格付け機関はデルグループの格付けを2段階引き上げている。今回の買収に詳しいある人物によれば、成熟したストレージ事業とほかの事業を混ぜ合わせることで「数十億」ドル単位の利益が得られるとデル氏は考えている。
しかし、EMCとデルは12日、買収による利益の4分の3は、EMCの機器を小企業や政府・医療機関といったデルの顧客に販売することによる売上高の増加から生じ、コスト削減やさらなる人員削減による利益は4分の1にすぎないと説明するのに苦労していた。