北海道の海岸に漂着したクジラやイルカの死骸を調べ、生態を調査する民間団体の活動が2007年1月の開始から10年目を迎える。代表は鯨類学などが専門の北海道大大学院水産科学研究院准教授の松石隆さん(51)だ。データは各地の研究者に提供され、生態解明や海の環境保全にも役立っている。
目撃者や自治体、漁協などから一報が寄せられると、松石さんらは車に飛び乗って急行する。死骸でも研究対象である以上は鮮度が命だからだ。腐臭を物ともせず種の特定、サイズ計測、外傷の有無を記録。さらに専用の刃物で解体して臓器、筋肉や血液を採集する。
団体の名は「ストランディングネットワーク北海道」。「ストランディング」とは「座礁」「漂着」という意味だ。松石さんは「北海道いるか・くじら110番」として携帯電話の番号やメールアドレスを公開し、情報提供を呼び掛けている。
松石さんによると、寄せられる情報は年間約60件。国内全体では年間約300件の報告があるといい、北海道だけで約5分の1を占める計算だ。
松石さんの研究室では胃の内容物からクジラやイルカが何を食べたか調べている。採集できた試料や状態によっては死因、回遊ルート、繁殖場所が推定でき、鯨類の生態把握につながる。
このほか、試料は北里大獣医学部(青森県十和田市)、日本鯨類研究所(東京)などにも送られ、さまざまな研究成果が海洋環境の把握、鯨類の頭数管理や魚との混獲を防ぐ方策の検討に役立てられているという。
松石さんは「皆さんから多くの情報提供をいただいており、ありがたい。今後も各地の研究機関と連携し、成果を高めたい」と話している。〔共同〕