九州旅客鉄道(JR九州)は13日、来春から熊本県で運行する新しい観光列車の名称「かわせみ やませみ」と車両デザインを発表した。新列車は日本三大急流の球磨川沿いを走る。同社の観光列車としては11本目で、熊本―鹿児島を結ぶ肥薩線では4本目。課題の南九州への誘客をテコ入れし、九州新幹線との相乗効果を高める狙いだ。
「かわせみ、やませみは球磨川や周囲の山々にちなんだ鳥の名前。これの他はないと決めた」。JR九州の青柳俊彦社長は13日、熊本県人吉市で開いた記者会見で命名の背景をこう説明した。新列車は車窓から望む球磨川の風景が大きな魅力。流域に生息する鳥の名を取り入れ、自然の豊かさを伝えるコンセプトだ。
列車は2両編成で定員70人程度。車両外観は1両目が川をイメージするブルー、2両目は山をイメージするグリーンで、ヘッドマークはかわせみとやませみの姿をあしらった。熊本―人吉駅間を毎日3往復程度する。
熊本県の八代駅から内陸に入り、渓谷を走って鹿児島県の隼人駅に抜ける肥薩線。この路線にJR九州の観光列車11本中、4本が集まることになる。4月からは同社の豪華寝台列車「ななつ星in九州」が、第三セクターによる運営で熊本―鹿児島間の沿岸部を走る「肥薩おれんじ鉄道」への乗り入れも始まった。
南九州へ相次ぎ「戦力投入」する狙いは、南九州の魅力発信による誘客促進と、新幹線との相乗効果を引き出すことだ。
現在、肥薩線を走る観光列車は熊本―人吉駅の「SL人吉」、主に人吉―吉松駅の「いさぶろう・しんぺい」、吉松―鹿児島中央駅の「はやとの風」の計3本。JR九州は乗り継いで熊本―鹿児島中央駅間を観光し新幹線で博多方面へ帰るモデルコースを提案する。
ただ「SL人吉」は大正時代の車両を使っており保守点検に時間がかかる。運行は3~11月の主に週末や連休の1日1往復に限られ、観光列車同士の接続は良くなかった。運行開始から12年になる「いさぶろう・しんぺい」「はやとの風」の乗車率は15年度でともに40%前後と苦戦する。
「SL人吉」と同区間で、毎日運行し便数も多い「かわせみ やませみ」を投入すれば、乗り継ぎが便利になり、乗車率向上を期待できる。「外国人観光客は阿蘇までが多い」(森亨弘営業部長)のが現状だけに、収益を大きく左右する新幹線を活用して南九州への誘客につなげたい考えだ。JR九州の鉄道事業の営業損益は16年3月期で100億円規模の赤字見通し。今期中の上場を控え、赤字圧縮へのテコ入れ策とも位置づけられる。
「どうすれば乗客に感動してもらえるか、地域の皆さんと1年かけて勉強したい」。青柳社長は沿線自治体や地元住民と知恵を出し合いながらサービスを決めていく方針も打ち出した。地域住民主体のおもてなしをいかに作っていくか、その土台作りはすでに始まっている。(新井惇太郎)