バスに乗る視覚障害者のジウソンさん(左)に声をかけるアルダイルさん
リオデジャネイロ・パラリンピックの開催国ブラジルの視覚障害者スポーツ連盟会長を取材したら、「ブラジルでは視覚障害者が信号交差点で立ち止まっていたら、1分もしないうちに通りすがりの人が『信号が見えないのか』と声をかけてくれる」と言われました。実際はどうなのでしょうか。リオデジャネイロ近郊で暮らす視覚障害者の通勤につき添う形で調べてみました。パラリンピックが来たら、道行く人々が障害者に優しくなるのかも知りたいと思っていました。取材してみると、その光と影が見えてきました。
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9月12日朝、生まれつき全盲のジウソン・ジョゼフィーノさん(40)の通勤の様子を取材しました。郊外のノバ・イグアス市からリオ市まで、バス3台を乗り継いで約3時間半の道のりです。
最初に乗ったバスでは、隣に座ったアルダイルさん(45)が、ジウソンさんの降りるバス停を尋ねました。アルダイルさんは立ち上がると、4席前の男性に「私は先に降りるので、あの人に降りるバス停を教えてあげて」と頼みました。アルダイルさんは「人を助けるのは人間の義務。自分も満足です」とすがすがしい感じです。
最初の乗り換えのバスターミナル。歩くジウソンさんの脇を次々とバスが通ります。その瞬間、後ろを歩いていたジャナエルさん(63)が、ジウソンさんの腕を引き寄せました。そのまま、次のバス停まで案内。ジャナエルさんは「バスが近づいて危なかったので声をかけました。人を助けることが好きなんです。ちゅうちょはないです」。
1回目の乗り換えでジウソンさんに声をかけた人は約30分間で5人いました。その中の一人、リビアネさん(26)に、視覚障害者が駅のホームから転落して亡くなった日本の事故のことを伝えると、「本人が必要としていないように見えても、声をかけていいのではないでしょうか」。
ブラジルでは、乗り合わせた他人同士が気軽に会話し、「あの人に席を譲ってあげて」という声かけも珍しくありません。
自分自身を省みてみました。東京都内の地下鉄で座席に座っているとき、障害のある人が目の前にいたら迷わず席を譲ります。しかし、3メートル先に立っていたら、考え込んでしまいます。「そこの方、この席に座って下さい」と声を張り上げればいいでしょうか。ただ、静かな車内では、ちゅうちょしてしまいそうです。近づいて「どうぞ」と勧めようにも、その間に他の人が座ってしまうかもしれません。ブラジル人は優しい、見習いたい、と感じました。
しかし、リオ市中心部でのバスの乗り換えでは、そんな優しさを感じる光景がぐっと減りました。約10分歩いて、一瞬だけ手を差し伸べたのは男性1人だけ。あとはバスの乗務員でした。携帯を手にし、ぶつかったジウソンさんを一見してその場を去る人も目立ちました。
パラリンピックの前身大会を主…