「だれが、いつ、どこで、どうした」という情報のうち、これまでよくわかっていなかった「だれ」の記憶が脳の中で保持されている領域を、理化学研究所脳科学総合研究センターの利根川進センター長ら日米の研究チームがマウス実験で見つけた。この領域にある神経細胞に操作を加え、忘れていた相手を思い出させたり、特定の相手への「好き嫌い」の感情を引き起こさせたりすることもできた。30日付の米科学誌サイエンスに発表する。
研究チームは、マウスがよく知っている相手、または見知らぬ相手に近づいたときの脳内の神経細胞の状態を調べた。その結果、よく知っている相手のときにだけ、記憶にかかわる脳の海馬と呼ばれる部分の腹側領域でよく活動していることがわかった。マウスは長時間会わない相手を忘れるが、記憶したときに働いた細胞群に青い光を当てると思い出した。
さらに、特定の相手を記憶したときに働いた細胞群を活性化しながら、マウスが嫌いな電気刺激も与えると、実際にその相手に会ったときに避けるようになった。マウスが喜ぶ物質を同時に与えると、逆に相手に積極的に近づくようになったという。
研究チームの米マサチューセッツ工科大の奥山輝大(てるひろ)研究員は「記憶に直接アクセスすることで、人工的に特定の相手を好きにも嫌いにもできるようになった」と話している。(瀬川茂子)