「ゲノム編集」の技術を使って、生きたマウスの脳や心臓の細胞の遺伝子を、狙い通りに変化させることに、理化学研究所や米ソーク生物学研究所のグループが成功した。遺伝病の新たな治療法につながる可能性がある。英科学誌ネイチャーに17日発表する。
ゲノム編集は、ゲノム(全遺伝情報)が載ったDNA分子を特定の位置で切断できる技術。切られたDNAが修復される際、変異が加わることで遺伝子を壊したり、新たに遺伝子を挿入したりできる。ただ、遺伝子の挿入は、分裂が盛んな細胞のみで働く修復を利用しており、ほとんど分裂しない神経や心筋の細胞では困難と考えられていた。
グループは、こうした細胞でも、効率良く遺伝子を挿入できることを人間の培養細胞などで証明。さらに、ゲノム編集の道具や遺伝子を載せた「運び屋」のウイルスを、生きたマウスに注射。挿入は困難とみられてきた心臓や筋肉、肝臓などで3~10%の細胞が狙い通りに遺伝子改変されていることを確認した。
ソーク研の鈴木啓一郎研究員は「理論上は、ほとんどの組織や臓器の遺伝病で応用できる。だが、狙った位置以外に遺伝子が入ったり、変異が起きたりする危険もあるので、さらに改良が必要」という。理研の恒川雄二研究員は「遺伝子改変が難しかったサルや鳥類にも使え、基礎研究でも有用ではないか」と話している。(阿部彰芳)