音声自動翻訳の仕組み
しゃべった言葉をその場でほかの言語に翻訳し、音声で流す最新技術の実験が、交通機関で広がっている。訪日外国人の増える東京五輪に向け、官民一体で精度向上に取り組んでいる。旅行の会話程度なら不自由のないレベルになるらしい。ドラえもんの秘密道具「ほんやくコンニャク」は実現するのか。
「大きい荷物をお持ちのお客様は、エレベーターをご利用ください」。羽田空港国際線ターミナル駅改札。駅員がメガホンに向かってしゃべると、上部の画面に英語、中国語、韓国語に翻訳された文章が表示された。ボタンを押すと、順番に音声で流れる。「If you have a suitcase……」
京浜急行電鉄が10月上旬に実施した実証実験。メガホンはパナソニックが開発した音声自動翻訳機「メガホンヤク」だ。翻訳にかかる時間は1秒程度。同社の担当者は、「旅行会話は英語テストTOEICで600点程度の実力。翻訳にかかる時間を短縮しつつ、2020年には700点まで精度を上げたい」と話す。
他の交通機関でも外国人観光客らへの対応のため、翻訳機の導入が相次ぐ。東京メトロは昨年8月からほぼ全駅の改札や駅事務所に音声自動翻訳アプリの入ったタブレット端末を配備した。約30言語に対応し、設定した言語に1~2秒で翻訳し、音声で流れる。京急電鉄は今年2月、京成電鉄も3月からほぼ全駅に配備した。
いずれも国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の音声自動翻訳技術が基礎になっている。総務省は東京五輪で外国人観光客が増えるとみて、19年度までの5年間を研究開発期間とし、これまで毎年10億円以上の予算を投入。NICTや交通機関、メーカーなどの152機関でつくる協議会のメンバーらが、精度向上や実用化に向けて実証実験を繰り返している。
音声自動翻訳の基本的な仕組みはこうだ。
日本語を英語に変える場合、まず、日本語を一文ごとに音声認識して文字に直す。次に、日英の文章の対訳を大量に集めた「辞書」を参照し、単語を一つ一つ英単語に変換し、英語の語順として最も正しい確率の高い文章に並び替える。精度は辞書のデータ量などが大きく左右する。最後に、文章を音声に合成する。
辞書の充実している分野では、すでに翻訳家が訳したものと遜色がなくなっているという。総務省研究推進室の担当者は「旅行、医療、防災、生活分野では、英語など10言語で、東京五輪がある20年までに日常会話で問題ないレベルにするのが目標」と話す。
NICT先進的翻訳技術研究室の隅田英一郎室長は「辞書の対訳は現在2500万程度で、全然足りない。日本では年間約5億の翻訳文章が生まれている。これを収集して辞書をつくれば、仕事などで外国語の必要な人以外は、機械で十分な世の中になる」と話す。
やがて、食べるだけで外国語を…