常連客と話す石黒智恵さん(右)。店では、病気などで髪を失った子たちへの「ヘアドネーション」(髪の寄付)の活動にも力を入れる=愛知県岡崎市
がんを患ったり、克服したりした人で予約が埋まる美容室が愛知県岡崎市にある。髪を整える以外に、抗がん剤治療で髪が抜けた人たちのために、ウィッグ(かつら)の調整や修理をする。店長もがん患者で、来店者の悩みを聞き、自身も元気をもらうという。
「もう薬は飲まなくていいの?」
昨年12月下旬、美容室「アトリエ・リリー」で、常連客の女性(67)の髪を触りながら、店長の石黒智恵さん(54)が笑顔で話しかけた。女性は昨年5月に乳がんの手術をしたばかり。「ここでは気楽に話して笑い合えるから、がんのことを忘れるくらい元気になれる」。世間話のほか、石黒さんに体調のことを相談する。
抗がん剤治療などで髪が抜けた人たちには、ウィッグのカットやシャンプーなどを施す。周囲の目を気にせずにリラックスしてもらおうと、同じ時間帯に客は1人だけの完全予約制。現在、客の7割ががん患者や経験者だ。常連客や病院からの紹介で、月に約100件の予約が入る。
石黒さん自身も2012年に乳がんが見つかり、手術を2回受けた。当時はかつらメーカーに勤務し、美容師としてウィッグのカットなどを担当していた。そのころから抗がん剤の副作用で悩む人を多く見てきて、昨年5月に美容室を開店した。
「がん患者を応援したい」とい…