「『天皇の退位等についての立法府の対応』に関する衆参正副議長による議論のとりまとめ」の全文は、次の通り。
天皇退位、特例法で与野党合意 今国会で成立させる方針
天皇退位、「とりまとめ」に対する7党会派の意見
1 はじめに――立法府の主体的な取り組みの必要性
「天皇の退位等」に関する問題を議論するに当たって、各政党・各会派は、象徴天皇制を定める日本国憲法を基本として、国民代表機関たる立法府の主体的な取り組みが必要であるとの認識で一致し、我々4者に対し、「立法府の総意」をとりまとめるべく、ご下命をいただいた。
2 今上天皇の「おことば」および退位・皇位継承の安定性に関する共通認識
その上で、各政党・各会派におかれては、ともに真摯(しんし)に議論を重ねていただき、その結果として、次の諸点については、共通認識となったところである。
①昨年8月8日の今上天皇の「おことば」を重く受け止めていること。
②今上天皇が、現行憲法にふさわしい象徴天皇の在り方として、積極的に国民の声に耳を傾け、思いに寄り添うことが必要であると考えて行ってこられた象徴としての行為は、国民の幅広い共感を受けていること。
このことを踏まえ、かつ、今上天皇がご高齢になられ、これまでのようにご活動を行うことに困難を感じておられる状況において、上記の「おことば」以降、退位を認めることについて広く国民の理解が得られており、立法府としても、今上天皇が退位することができるように立法措置を講ずること。
③上記②の象徴天皇の在り方を今後とも堅持していく上で、安定的な皇位継承が必要であり、政府においては、そのための方策について速やかに検討を加えるべきであること。
3 皇室典範の改正の必要性とその概要
(1)さらに、各政党・各会派においては、以上の共通認識を前提に、今回の天皇の退位およびこれに伴う皇位の継承に係る法整備に当たっては、憲法上の疑義が生ずることがないようにすべきであるとの観点から、皇室典範の改正が必要であるという点で一致したところである。
(2)その具体的な書き方については、「天皇の退位については皇室典範の本則に規定すべきである」との強い主張もあったが、我々4者としては、そのような主張の趣旨をも十分に踏まえながら、①国民の意思を代表する国会が退位等の問題について明確に責任を持って、その都度、判断するべきこと、②これにより、象徴天皇制が国民の総意に基づくものとして一層国民の理解と共感を得ることにつながること等といった観点から、皇室典範の付則に特例法と皇室典範の関係を示す規定を置いた上で、これに基づく退位の具体的措置等については、皇室典範の特例法であることを示す題名の法律(以下単に「特例法」という)で規定するのがよいと考えた次第である。
具体的には、皇室典範の付則に、次のような趣旨の規定を置き、この下で特例法を定めるものとすることが考えられるのではないか。
この法律の特例として天皇の退位について定める天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成29年法律第○号)は、この法律と一体をなすものである。
この規定により、①憲法第2条違反との疑義が払拭(ふっしょく)されること、②退位は例外的措置であること、③将来の天皇の退位の際の先例となり得ることが、明らかになるものと考えられる。
4 特例法の概要
特例法においては、以下のような趣旨の規定を置くことが適当ではないか。
(1)今上天皇の退位に至る事情等に関する規定に盛り込むべき事項
①今上天皇の象徴天皇としてのご活動と国民からの敬愛
昨年8月8日の「おことば」は、国民の間で広く深い敬愛をもって受け止められていること。また、今上天皇は、在位28年余の間、象徴としての行為を大切にしてこられ、これに対する国民の幅広い共感を受けていること。
②今上天皇・皇太子の現況等
今上天皇が高齢であること。皇太子は、今上天皇が即位された年齢をこえ、長年、国事行為の臨時代行等を務めてこられたこと。
③今上天皇の「おことば」とその発表以降の退位に関する国民の理解と共感
今上天皇の退位については、従来のようにお務めを果たすことに困難を感じておられる状況において、昨年8月8日の「おことば」が発表されて以降、そのお気持ちが広く国民に理解され、共感が形成されていること。立法府においても、その必要性が共通認識となっていること。
(2)今上天皇の退位とこれに伴う皇位継承に関する規定
※今上天皇の退位の時期の決定手続きにおける皇室会議の関与の在り方については、国会における法案審議等を踏まえ、各政党・各会派間において協議を行い、付帯決議に盛り込むこと等を含めて結論を得るよう努力するものとする。
(3)退位後の天皇のご身位、敬称、待遇等および皇嗣に係る事項に関する特例規定
退位後の今上天皇の補佐体制その他の退位に伴う諸事項(宮内庁法、皇室経済法等)の法整備を含む。
※「退位した天皇の呼称など」「皇嗣の呼称など」および「その他」に関する項目については、上記の法整備に係る検討項目の中に含まれている。
以上のような法形式をとることにより、国権の最高機関たる国会が、特例法の制定を通じて、その都度、諸事情を勘案し、退位の是非に関する国民の受け止め方を踏まえて判断することが可能となり、恣意(しい)的な退位や強制的な退位を避けることができることとなる一方、これが先例となって、将来の天皇の退位の際の考慮事情としても機能し得るものと考える。
5 安定的な皇位継承を確保するための方策についての検討および国会報告について
安定的な皇位継承を確保するための女性宮家の創設等については、政府において、今般の「皇室典範の付則の改正」および「特例法」の施行後速やかに検討すべきとの点において各政党・各会派の共通認識に至っていたが、その検討結果の国会報告の時期については、「明示することは困難である」とする主張と「1年をめどとすべきである」とする主張があり、国会における法案審議等を踏まえ、各政党・各会派間において協議を行い、付帯決議に盛り込むこと等を含めて合意を得るよう努力していただきたい。
6 おわりに――政府に対する要請
各政党・各会派においては、いずれも「退位に係る立法措置は今国会で成立させるべき」との思いを共有している。
したがって、政府においては、以上に述べた「立法府の総意」を厳粛に受け止め、直ちに法律案の立案に着手し、誠実に立案作業を行うとともに、法律案の骨子を事前に各政党・各会派に説明しつつ、法律案の要綱が出来上がった段階において、当該要綱を「全体会議」に提示していただき、そこで確認を経た後、速やかに国会に提出することを強く求めるものである。