稀勢の里は寄り切りで鶴竜に敗れ、花道を引き揚げる=伊藤進之介撮影
(25日、大相撲春場所14日目)
力なく土俵を割ると、稀勢の里は顔をゆがめてうつむき、そして天を仰いだ。13日目に左肩付近を痛めた影響は明らか。最大の武器だった左腕が使えず、左差しがままならない。優勝への強い思いから強行出場した新横綱にとっては、残酷すぎる現実だった。
どすこいタイムズ
この日の朝、稽古場には姿を見せなかった。会場入りの際の引き締まった表情は前日までと同じだったが、土俵入り以降は全てが違う。左肩にはテーピングが施され、大きく「パチン」と両手で響かせていた「柏手(かしわで)」の音は消え入るほど。取組直前に左右の手で顔をたたくルーティンでも、左手の時だけ音が聞こえなかった。
先輩横綱を相手に、手負いの状態では勝負にならない。右で張って出た立ち合いだったが、顔をしかめる。左腕は、力なくあてがっただけだった。簡単に両差しを許し、鶴竜に抱きかかえられるようにして、2秒余りで寄り切られた。
前日動かせなかった左腕については痛めた箇所、症状とも一切明かしていない。取組後、出場に迷いはなかったか問われても、目をつぶったまま答えなかった。「やるからには最後までやりたい。まあ、明日。大丈夫です」。必死に前向きな言葉を絞り出した。
優勝するには千秋楽で、185キロの照ノ富士を本割、優勝決定戦と連続で倒さなければいけない。今の稀勢の里には、それはあまりに重い。(菅沼遼)