学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設をめぐって、「総理のご意向」などと書かれた一連の文書について、安倍政権は調査のやり直しに追い込まれた。菅義偉官房長官が記者会見で「怪文書」とまで呼び、松野博一文部科学相も「出所不明」と強弁し続けてきた。国民への説明を果たさずにきた責任が問われる。
加計学園問題
「総理のご意向」文書、文科省調査やり直し 加計問題
「追加調査をする必要があるとの国民の皆様の声が多く寄せられております。国民の声に真摯(しんし)に向き合い、改めて徹底した追加調査を行いたい」。松野氏は9日午前の記者会見で「国民の声」という言葉を繰り返した。同日の閣議後、安倍晋三首相に再調査の意向を伝えたという。
文科省は、朝日新聞などが加計学園の獣医学部新設について「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」などと書かれた文書を報じた後の5月19日、「文書の存在は確認できなかった」と発表した。担当する専門教育課の共有フォルダーを調べ、幹部ら7人の聞き取りをする一方、省内で個人が使っているパソコンなどは調べなかった。このため、国会などで野党は「不十分な調査だ」と厳しく批判してきた。
それでも、松野氏は9日の記者会見で、最初の調査について「合理的だった」と繰り返し、不十分だったとは認めなかった。再調査の方法は「早急に検討する」とだけ述べ、その詳細を明かさないまま、10分余りで会見は終わった。
一方、調査のやり直しを拒んできた政府はこれまで、新たな証言や物証が明らかになるたびに説明を変えてきた。
朝日新聞が「総理のご意向」と記された文書の存在を初めに報じたのは5月17日。同日の国会で民進党が同じ文書を示すと、菅官房長官は記者会見で「怪文書みたいな文書」と信用性を否定した。
しかし、前川喜平・前文科事務次官が5月23日に朝日新聞のインタビューで「昨年秋に、担当の専門教育課から説明を受けた際、示された」と証言。同25日の記者会見でも「真正なもので幹部の間で共有された文書だ」と明らかにすると、政府側は「出所や入手経路が不明」との理由を挙げて拒み続けた。
その後、民進党が「官邸の最高レベルが言っている」などと記された文書が文科省内で送受信されたとみられるメールの写しを公表。朝日新聞が今月6日に現職職員の証言として「省内の複数の部署で共有されていた」と報じると、松野氏は「政策決定過程に関してのものは公表しないと判断している」と述べていた。
■加計学園「総理のご意向」などの文書を巡る経緯
5月17日 朝日新聞が、文部科学省が内閣府から「総理のご意向」と伝えられた、などと記録した文書の存在を報道
同日 菅義偉・官房長官が会見で「作成日時だとか作成部局だとか、明確になっていない」「怪文書みたいな文書」
19日 松野博一文科相が「該当する文書の存在は確認できなかった」とする調査結果を発表
25日 前川喜平・前文科事務次官が会見し、「(担当課から)報告を受けた際に受け取った文書に間違いない」
同日 菅官房長官が会見で「文科省の調査結果で確認できず」
6月2日 民進党が文書が文科省内で送られたと見られるメールの写しを公表
5日 松野文科相が国会で「省内外の政策の意思決定過程について、これを公表しないのは従来からのことだ」
6日 朝日新聞が「文書は省内で共有していた」とする文科省の現役職員の証言を報道
9日 松野文科相が会見で調査のやり直しを表明