スウェーデンアカデミーで6日、会見を開いたカズオ・イシグロさん=ロイター
今年のノーベル文学賞に決まった長崎市生まれの日系英国人作家カズオ・イシグロさん(63)が、6日午後1時(日本時間午後9時)、10日の授賞式を前に、ストックホルムのスウェーデン・アカデミーで会見を開いた。
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冒頭、質疑応答を日本語でやってはと記者側から提案されると、日本語はうまくないといい、「すみません」と日本語で言った。自身の母親が長崎で被爆したことに触れ、平和賞に国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))が決まったことは「大きな喜び」と話した。
イシグロさんの日本名は石黒一雄で、5歳のときに英国に移住し、成人後に英国籍を取得した。日英両方の文化に影響を受けたことについて、「私は英国の教育の産物だ。私が育った1960年代は、海外で日本人を育てると怪物になるともいわれていたが、自分は国際的な日本人になろうと思った。興味深い視野を持てて、それが書くことに役立っている。ノーベル賞をいただくので、海外育ちも悪くないということが証明できたのでは」と笑いを誘った。
また、ノーベル賞については、「ここ数年、社会がネガティブになってきていて、小さなコミュニティーに分離され、互いに争い合う傾向にある。そういう状況をまとめるべきで、ノーベル賞は、人間がみんなで達成しようとすることの象徴だと思う」と語った。
1982年に長崎を舞台にした「遠い山なみの光」で長編デビューし、王立文学協会賞を受賞。89年、貴族に仕える老執事が主人公の「日の名残(なご)り」で、英国で最も権威あるブッカー賞を受賞した。2005年にはクローン技術で生まれた若者を通して生命倫理に迫る衝撃作「わたしを離さないで」を発表するなど、一作ごとに新境地を開いてきた。
スウェーデン・アカデミーは、ノーベル文学賞の授賞理由を「人と世界のつながりという幻想の下に口を開けた暗い深淵(しんえん)を、感情豊かにうったえる作品群で暴いてきた」としている。
イシグロさんは、7日に受賞記念講演をし、10日の授賞式に出席する予定だ。(ストックホルム=吉村千彰)