葛飾北斎と名古屋の深い関係を探る特別展「北斎だるせん!」が、名古屋市瑞穂区の名古屋市博物館で開催中だ。名古屋ゆかりの「北斎漫画」と「大だるまイベント」に光を当てながら、大衆小説の挿絵画家だった北斎が「世界の北斎」になるまでを見渡せる展示となっている。
数え年で90まで生きた北斎は50代に2度、名古屋に滞在した。「北斎漫画」は1度目の滞在時に生まれた挿絵の手本集。人間の様々な動作を卓越した素描力で描き、西洋にも影響を与えた。尾張藩主の墓で見つかった冊子ほか関連図譜集を、北斎のコイやカエルの図柄を転用したエミール・ガレのガラス花器などと並べて紹介する。
「大だるまイベント」は2度目の滞在中、ちょうど200年前の秋に催された「北斎漫画」のPR企画。寺の境内で縦18メートルもある絵を即興で描いて見せた北斎は、城下の人々から「だるせん(だるませんせい)」と呼ばれて親しまれた。絵は現存しない。大だるまに挑む北斎を絵と文で記録した高力(こうりき)猿猴庵(えんこうあん)の資料に基づいて絵の一部分と大筆を実寸大で再現し、記念写真コーナーに配置している。
「『北斎漫画』を出版して『大だるまイベント』を仕掛けた永楽屋、その様子を記録した猿猴庵……。北斎を応援した名古屋人たちに喝采を送りたい」と津田卓子学芸員。北斎の絵の面白さが伝わる工夫を随所に凝らしてある。和本をイメージしたおしゃれな装丁と充実した内容の図録も素晴らしい。12月17日まで。(佐藤雄二)