「再審開始決定」が伝えられ、支援者らに報告する大崎事件弁護団の森雅美団長。左は事務局長の鴨志田祐美弁護士=12日午前11時4分、宮崎市旭2丁目、日吉健吾撮影
男性の遺体が見つかってから38年半。鹿児島地裁に続き、福岡高裁宮崎支部も「大崎事件」の再審開始を認めた。請求人の原口アヤ子さん(90)に寄り添ってきた支援者らは、喜びの声を上げた。
「大崎事件」再審認める 3度目の請求で 高裁支部
12日午前11時過ぎ、弁護団の2人の弁護士が福岡高裁宮崎支部の建物から飛び出してきた。「高裁で初の再審開始決定」「即時抗告棄却」などと書かれた旗を掲げると、正門前に集まった約100人の支援者から歓声があがった。「勝った!」「万歳」「よかった」。
その輪に、少し遅れてピースサインをしながら飛び込んできた女性がいた。弁護団の鴨志田祐美事務局長(55)。皆にもみくちゃにされながら、満面の笑みを浮かべた。
鴨志田弁護士は、口癖のように訴えてきた。
「この事件は、知的障害者への取り調べの配慮が全くされていなかった。裁判官も検察官も、弁護士も、法曹3者で過ちを正さないといけない事件なんです」
第1次請求の特別抗告審(2004年)から、弁護団に加わった。証拠書類を見て、疑問が湧いた。
検察官の供述調書では知的障害のある親族3人とも詳しく自白している。なのに、数カ月後に開かれた公判では内容の乏しい供述しかできていない。「公判では会話が成り立ってさえいないのに、どうして検察官の前ではすらすら話せているのか……」
鴨志田弁護士の3歳下の弟には知的障害がある。弟は小さなときから、母親に怒られても、あらがうことができなかった。反論するとさらに怒られると思って、いつも「はい。はい」と言っていた。「知的障害者は相手の言っていることをよく理解できないとき、相手を満足させる対応をしてしまいがちなんです」
この日の決定も、親族3人の供述を「そのまま信用することはできない」と指摘した。
再審請求を続ける中で、原口さんの顔を思い浮かべながら車で聴き続けた歌がある。
Mr.Childrenの桜井和寿氏らのバンド「Bank Band」の曲「はるまついぶき」だ。
《降り積もる雪に覆われた 春待つ息吹のように かすかでも光に向かう強さを抱きしめたい――》
目の前が真っ暗だった当時の心境が歌詞と重なった。
鴨志田弁護士は支援者に向かい、「勝ちました! 高裁で初めて笑うことができました」と声をあげた。ようやく「再審無罪」の光が見えてきた。(野崎智也)