シリアでの化学兵器使用疑惑を受け、国連安全保障理事会は10日(日本時間11日午前)、真相解明と責任追及にあたる調査チームを設立する米国作成の決議案を採決した。しかしシリア政府を擁護してきたロシアの拒否権で廃案となった。
仏大統領、シリア攻撃なら化学兵器の製造拠点に限定
シリア問題でのロシアの拒否権行使は2011年以降で12度目。安保理の機能不全が続く中、シリアへの軍事攻撃も視野に検討しているトランプ米政権の出方が注目されている。
採決では、米英仏など12カ国が賛成し、ロシアとボリビアが反対、中国が棄権した。会合では「シリアの人々よりモンスター(シリアのアサド政権)擁護を優先した」(米国)、「化学兵器の使用を『でっち上げ』と言うなら調査を拒むな」(オランダ)などとロシア批判が相次いだ。
米国は独立した調査チームを設ける案を9日、理事国に配布。軍の飛行記録などの提出をシリアに義務づける内容に「調査前からシリアによる使用と決めつけているようだ」との指摘も出て、より多くの賛成を集めるため詳細な義務規定は最終案で削除された。
ロシアのネベンジャ国連大使は、米国案は反シリア勢力の「操り人形」になった以前の調査チームを復活させるだけの内容だと反対理由を述べた。また米国のヘイリー国連大使に「(他国を)脅すのが上手だ。進行中の計画を避けるよう嘆願する」と述べ、軍事攻撃を回避するよう求めた。
米国はシリアへの軍事攻撃に際し、多国籍軍による共同作戦を検討している。トランプ大統領は10日、英国のメイ首相と電話会談。英国の協力を求めたとみられる。フランスのマクロン大統領も同日、仏が攻撃する決断は「数日以内に下す」と述べた。
この日はロシア作成の決議案2本も採決されたが、いずれも賛成票が規定の9カ国に届かず廃案に。反対したヘイリー氏は、ロシア案では、ロシアに調査員を選ぶ機会がある上、安保理が調査結果を審査できる構造になっており「独立で公正な調査にならない」と理由を述べた。どの結果を採用するかでロシアが拒否権を使えるとの指摘だ。
安保理決議の採択には、理事国15カ国のうち9カ国の賛成と、常任理事国(米英仏中ロ)が拒否権を発動しないことが必要。(ニューヨーク=金成隆一)
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菅義偉官房長官は11日午前の記者会見で、国連安全保障理事会でシリアでの化学兵器使用疑惑の真相解明にあたる調査チーム設立の決議案が廃案となったことについて、「化学兵器使用に関する責任の所在を明らかにすることが重要。安保理決議が否決されたことは極めて残念だ」と述べた。
また、「化学兵器の使用が事実であれば決して許されない。我が国としては、強く非難をしたい」とし、米国をはじめとする関係国と連携して対応する考えを示した。