近年、夏の甲子園を騒がせるラテンのリズム。「アゲアゲホイホイ、もっともっと!」。メガホン両手に、ええじゃないかとばかりに踊る応援が一大ムーブメントになっている。
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野球部員らが掛け声とともに一斉に踊り出す。「アゲアゲホイホイ」。リズミカルに両手を上下させながら、部員らが叫ぶ。
2014年夏、報徳学園(兵庫県西宮市)野球部で応援の指導役をしていた玄之内大(げんのうちだい)さん(22)=流通科学大4年=の発案から生まれた。
兵庫大会へ向けた応援練習でのことだ。「普通にやっても、アレやな」と玄之内さんは考えた。頭に浮かんだのは、前年秋の近畿大会で耳にした「サンバ・デ・ジャネイロ」。ノリの良さが気に入った。この曲に合いの手を入れよう。テンションが「アゲアゲ」で、点を「ホイホイ」取れる掛け声。そう「アゲアゲホイホイ」はどうだ――。
初披露は兵庫大会での初戦。最初は、合いの手担当と曲を口ずさむBGM担当を学年で分けていたのに、気が付けば全員が熱に浮かされたように夢中でこのフレーズを繰り返していた。
初戦はコールド勝ち。「この応援、最強やな!」。そんな声が上がった。
しかしその夏、報徳学園は甲子園に行けなかった。次の夏も、次の次の夏も、そのまた次も。「アゲホイ」が全国に知られるきっかけを作ったのは皮肉にも同じ県内の明石商だった。
15年夏の兵庫大会準々決勝で報徳学園は明石商に惜敗。「報徳の代わりに甲子園でとどろかせてくれ」と「アゲホイ」を明石商応援団に託した。翌16年春の選抜大会に出場した明石商は8強入りし、「アゲホイ」を甲子園で披露した。
音楽フェスのような応援スタイルは高校生たちの心を一気につかんだ。当初はなかったダンス風味が加わり、各校が独自のアレンジを足していく。進化する「アゲホイ」を玄之内さんは複雑な思いで見つめた。
「ブラバン甲子園大研究」著者の梅津有希子さんによると、16年夏には「アゲホイ」を使った学校は出場49校中2校だったが、昨夏は24校に急拡大した。
「SNSや動画投稿サイトの普及で、変わった応援風景や応援スタイルは地方大会であってもすぐに全国へ広まり、シェアされる。まさに時代が生んだ応援スタイルと言えるでしょう」
今年、報徳学園は東兵庫大会を制して8年ぶり、明石商は西兵庫大会を制して初の夏の甲子園出場を決めた。ともに第7日(11日予定)が初戦。報徳応援団の日野佑紀君(3年)は「『アゲホイは僕らのもんや』というプライドがある。先輩から受け継いだ本物を甲子園で見せつけたい」という。
大学で野球を続ける玄之内さんは「後輩たちがついに……」と感慨深げだ。応援にも駆け付けるという。夢だった夏の甲子園で「正調アゲアゲホイホイ」を披露する日がやっと訪れる。(秋山惣一郎、山崎毅朗)