エネルギーを語ろう
米国ではいま、風力発電と太陽光発電が大きくシェアを伸ばす「エネルギー革命」が起きているといいます。公益財団法人・自然エネルギー財団(東京)で、ロマン・ジスラー氏とともに米国の電力市場の実態をリポート「自然エネルギー最前線in U.S.」(
https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20180704.html
)にまとめた石田雅也氏さんにインタビューしました。
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――リポートをまとめてみての率直な感想をお聞かせください。
「想定した以上の変化でした。米国のエネルギー市場をめぐっては、(画期的な採掘法で石ガスの埋蔵量が飛躍的に増えた)『シェールガス革命』が記憶に新しいですが、次の『エネルギー革命』が進んでいます。風力発電と太陽光発電の導入量が2010年ごろから急拡大しているのです。トランプ政権になって石炭火力や原子力発電に戻るのでは、という見方が日本にはありますが、実際にはそんなことにはなっていません」
――リポートに掲載されたデータによると、米国の風力発電の設備容量(累計)は10年の4030万キロワットから、17年には8908万キロワットと倍増しています。なぜこれほど増えているのですか。
「端的に言えばコストの低下です。風力発電機の価格(1キロワットあたり)は08年に約1600ドルだったのが、16年には800~1100ドルまで下がりました。量産効果に加え、大型化が進んだためです。1基あたりの設備容量は5年ぐらい前まで2千キロワットが標準的だったのが、今や3千~5千キロワットになり、さらに1万キロワットも実用化されようとしています。その分、1基当たりの発電量が増えるので、相対的に発電コストが下がるのです」
――太陽光発電も13、14年あたりから急激に伸びています。10年に204万キロワット(累計)だったのが、07年には5104万キロワットにもなりました。
「はい。これもコストの低下が大きい。太陽光発電の1ワットあたりの発電システムのコストは4.57ドル(10年)から1.03ドル(17年)と4分の1以下になりました。中国製の太陽光パネルの販売競争と市場拡大で劇的に価格が下がったのです」
まだ伸びる余地 気候変動問題も後押し
――ただ、導入状況は地域・州によってかなり違うようです。リポートによれば風力は中西部の北側、太陽光は南西部などで伸びています。
「三つの要因があります。まず第1に、それぞれの地域で、風況や日射量の良しあしといった『資源量』に左右されます。つまり条件のいいところから自然エネルギーが入っているわけです。2番目に、電力の自由化の進展具合も影響します。完全に自由化された州は全米でも半分ぐらいですが、自由化されていないと、利用者が自然エネルギーを自由に選択できません。3番目に、州が電力会社に自然エネルギーの導入目標を課しているかどうかも状況を左右します」
「そういう点で現状、自然エネルギーが多い州、少ない州とパッチワークのようになっていますが、それだけ、まだまだ伸びる余地があるということです。とくに日射量の多い地域が広大な国土のなかに広がっているので、太陽光発電は今後、米国全域で成長するポテンシャルを持っているとみています」
――電気を使う側にも自然エネルギーを求める声が強まっているそうですね。
「火力発電だと、いつ燃料の価格が高騰するか分かりませんが、自然エネルギーなら、発電所を建てた後は燃料費がかかりません。なので、電気を使う企業からすると、自然エネルギーの発電コストが火力と同等であれば、それは自然エネルギーを選びますよ。火力は将来、二酸化炭素の排出で何らかの負担を求められるかもしれません。(地球温暖化対策の新たな国際ルール)『パリ協定』が発効し、気候変動も喫緊の課題との認識も強まっているのです」
石炭火力と原子力発電は厳しい
――リポートによると、ここ7年間で全米の半数以上の石炭火力発電所が廃止に追い込まれ、100基近くある原子力発電も17年時点で半数以上が赤字になっているんですね。
「米国の場合、まず安価なシェールガスを使ったガス火力に対して、石炭火力や原子力発電が相対的に高くなりました。加えて自然エネルギーが増えてきたので、既存の火力、原子力の稼働率を下げざるをえません。それで採算がさらに悪化しました」
――そうした中で、成長する電力会社もあれば、経営を悪化させた電力会社もあると。
「電源構成を自然エネルギーに変えている会社のほうが収益が良くなっています。それはコストが安いし、売れるから。例えば電力大手のネクストエラ・エナジーはすでに保有する発電設備約4500万キロワットのうち、約3分の1の1500万キロワット近くを自然エネルギーにしています。スペインのイベルドローラなど自然エネルギーの導入で先行した欧州企業も、米国にチャンスがあるとみて次々、進出しています」
日本勢は米国で勝負できる?
――東京電力も、今後は国内外で自然エネルギー事業に力を入れる方針を明らかにしています。米国市場に食い込めるでしょうか。
「欧州の電力会社は、自国あるいは欧州全域で自然エネルギーを伸ばしたノウハウをもとに米国に進出しています。日本の中で風力発電や太陽光発電の実績が少ない電力会社が、そうした欧州の電力会社に勝てるのか、疑問です」
――日本では、自然エネルギーの価格がまだ高いです。
「12年に始まった自然エネルギーの固定価格買い取り制度の仕組みに、いくつかの不備がありました。とくに太陽光発電の買い取り価格は1キロワット時40円(事業用)で始まりましたが、稼働しなくてもその権利を残せることになっていました。だから、頑張って競争して安くするというモチベーションが欧米に比べて弱いのです。また、欧州には太陽光専門の設備会社があり、設置工事が安くできます。日本にはそうした形で自然エネルギーを安くしていく市場構造になっていませんでした」
日本のエネルギー計画 世界にたち遅れ
――政府は今年7月に決めたエネルギー基本計画で、30年の電源構成として原子力発電20~22%、石炭火力26%としました。自然エネルギーは22~24%です。この計画をどうみますか。
「世界の流れから、まったく、たち遅れています。石炭火力と原子力発電にどんな未来が描けるのでしょうか。経済産業省はいわゆる『3E(安定供給=Energy Security、経済効率性=Economic Efficiensy、環境適合=Environment)+S(安全性=Sefty)』の観点から必要だと論じていますが、お話ししたとおり、もう3E+Sを考えても、石炭火力と原子力発電は条件に合わなくなってきています」
「日本の自然エネルギーの価格が高く、量も少ないという状況が続くと、海外の企業は事業拠点を日本から移すおそれがあります。日本の産業界には、危機感を持って『自然エネルギーをもっと増やして欲しい』という声を上げてほしいと思います」
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〈いしだ・まさや〉 1958年、神奈川県生まれ。83年に東工大大学院修士課程(情報工学)を修了し日経マグロウヒル(現・日経BP)入社、ニューヨーク支局長や「日経コンピュータ」編集長などを務めた。2012年4月から17年3月まで電力・エネルギー専門メディアの「スマートジャパン」をエグゼクティブプロデューサーとして運営、自然エネルギーに関する記事を多数執筆。17年4月、自然エネルギー財団の自然エネルギービジネスグループマネージャーに就き、現在に至る。(聞き手=小森敦司)
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電力やエネルギーの姿が国内外で大きく変わりつつあります。何が起きていて、どこに向かうのか。「エネルギーを語ろう」では、さまざまな識者へのインタビューを通じて、その行く先を探ります。