旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナで7日、総選挙があり、主な民族別に3人が務める大統領職のうちのセルビア系大統領に、民族色を強く出すミロラド・ドディック氏(59)が当選する見通しになった。セルビア人共和国の分離を主張するなど民族感情を刺激する発言を繰り返しており、国のトップに就くことに懸念の声がある。
ボスニア・ヘルツェゴビナは1990年代の旧ユーゴ解体に伴う紛争をへて、95年のデイトン合意で停戦し、異なる宗教・民族がすみ分ける国の仕組みを定めた。国はボシュニャク系とクロアチア系が主体のボスニア・ヘルツェゴビナ連邦と、セルビア系主体のセルビア人共和国に分かれ、民族別に3人の大統領職が「大統領評議会」を構成して8カ月ずつ議長となって国家元首の役割を務める。
ドディック氏は、セルビア人共和国の中心都市バニャルカを拠点にして、セルビア人共和国の首相や大統領を歴任。反米・反西欧の立場で、ロシアのプーチン大統領と親しいとされ、国が目標とする欧州連合(EU)への加盟にも否定的だ。今回、国レベルの大統領職にくら替えしたが、対立候補に投票すれば公営企業をクビにすると発言して罰金を科されるなど、選挙戦でも物議を醸した。
クロアチア系の大統領職には、穏健派で民族色を抑えるジェリコ・コムシッチ氏(54)が現職を破って返り咲く見通しだ。連邦では、ボシュニャク人とクロアチア人のどちらの大統領職に投票してもよいことになっており、多数派のボシュニャク系の支持も集めたとみられている。
ボスニア・ヘルツェゴビナは欧州最貧国の一つで、若者の高失業率などで人口流出に悩む。行政単位は国、セルビア人共和国と連邦、さらに連邦内には10の州があり、権限の分散による非効率が指摘され、汚職の蔓延(まんえん)や選挙の不正が、開発を停滞させていると指摘されている。
連邦内では、こうした現状への不満から民族色の強い現職が苦戦した。一方、セルビア人共和国では、分離傾向の根強さが浮き彫りになった。(サラエボ=吉武祐)