北方領土・択捉島のヤースヌイ空港で9月26日、旅客機に乗るためターミナルから歩き始めると、3機の戦闘機が見えた。ロシア軍が試験配備した新鋭戦闘機スホイ35だとみられる。地元メディアが8月上旬、その存在を伝えていた。
急発展、高まる島民の愛国心 ロシア人助手が見た択捉島
戦闘機との距離はわずか数十メートル。数人の乗客がカメラを向けると、警備員が慌てて近付き、腕でバツ印をつくって撮影を止めた。空港ビルにも以前はなかった撮影禁止のマークがあり、警備が厳しくなっていた。
朝日新聞のロシア人助手が9月、択捉島で取材したところ、島民からは領土交渉に否定的な声が目立った。
ヤースヌイ空港が開業したのは2014年9月。開業式典には、ロシアのプーチン政権の実力者だった当時のイワノフ大統領府長官も駆けつけ、期待の高さをうかがわせていた。
それまで民間の航空路線があったブレベストニク空港(旧日本軍の天寧飛行場)は、ソ連時代にミグ戦闘機が常駐した戦略拠点だったが、濃霧による欠航が多かった。新空港は今年2月、軍民共用とする方針を発表。今後、軍事利用が増える可能性がある。
北方領土にはソ連末期、約1万人の地上軍が展開。戦車や対空ミサイルも配備されていたが、ソ連崩壊後は軍備の老朽化が進んだ。現在の駐留部隊は択捉島と国後島で計約3500人とみられるが、16年に新型地対艦ミサイルを配備。軍事施設の建設も進む。今月10日も北方領土周辺で射撃訓練を行ったとみられる。
島民もこの動きを歓迎する。タチアナ・キセリョワさん(67)は「国境の防衛強化は必要だ」。元軍人のウラジーミルさん(60)は「ソ連時代より防衛力が大きく落ちた。米国と日本の軍事力は格段に強く、小さな犬が象にほえる程度だ」と訴える。
島では近年、愛国心を高める取り組みも活発だ。16年には第2次世界大戦の勝利を記念する広場が完成。かつて北方領土の部隊に所属し、17年にシリアで戦死したロシア人中将の慰霊碑もある。
今年9月22日には、ロシア国防省の有名オーケストラが国民的歌手とコンサートを開いた。択捉島では14年に初めて公演した。
演奏は「第2次世界大戦の終結と南サハリンやクリル諸島(千島列島と北方領土のロシア側呼称)の解放」を記念する意味もある。国後島や色丹島でも愛国心を鼓舞した。演奏を聴いた島民のビクトル・ガラガンさん(31)は力を込めた。「島はロシアのもの。守らないといけない」
朝日新聞のロシア人助手が9月、択捉島で取材したところ、島民からは領土交渉に否定的な声が目立った。
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