レスリングの世界選手権で日本男子の最年少優勝記録を更新した乙黒拓斗(山梨学院大)が、マットサイドの小幡邦彦コーチを見て、表情を緩ませた。「安心した。やっと大会が終わったなという感じ」。緊張とは無縁の動きでトップに上り詰めた19歳が、最後の最後に笑顔をのぞかせた。
乙黒が日本男子最年少優勝 レスリング世界選手権
休みの日には部屋にこもり、アイドルグループ・乃木坂46の映像を見るのが何より幸せ。「1周回って王道の白石麻衣推し」とはにかむが、ひとたびマットに上がれば「人が変わる」と小幡コーチ。まさにけんか腰で相対する。本人は「体一つで戦うのがレスリング。王者だろうが挑戦者だろうが関係ない」。
迎えた決勝。8月のジャカルタ・アジア大会優勝のバジュランに襲いかかった。低く、速いタックルを見舞ってリードを奪った。途中でひねった右足首の痛みが増す一方に。試合を止めるたび、会場からブーイングを浴びた。気持ちが折れてもおかしくない局面だが「守ったら負け。強気に」。相手を攻めたて、16―9と点差を広げた。
最年少記録を破られた高田氏は、乙黒拓が所属する山梨学院大の監督だ。「教え子が自分の記録を破る。これ以上最高のことはないね。彼は平成の怪物」と目を細めた。体の柔らかさは天性のもので、何より負けず嫌い。練習で負けると激しく壁をたたくという。
「メンタルは強いとよく言われる。攻めなきゃ勝てないので、その一択」と乙黒拓。2020年東京五輪を前に、いきのいいスター候補が躍り出た。(金子智彦)