日米株価の下落が止まらない。世界経済の牽引(けんいん)役とされた米国経済だが、貿易摩擦やトランプ政権の政策をめぐり、先行きの不透明感が強まっている。
24日のニューヨーク市場でダウ工業株平均は608ドルも急落。史上最高値をつけた3日から2200ドル超が吹き飛び、年初の水準も下回った。夏以降、世界の市場が足踏みする中で米市場は上昇し、「一人勝ち」と言われたが失速は明らかだ。
世界経済の先行き懸念が強まる中、投資家は高値の株を売るタイミングを計り、少しの兆候も見逃すまいと神経質になっている。今月半ばから米大企業の2018年7~9月期決算発表が本格化。焦点は米国と中国などの貿易摩擦が企業業績に影響しているかだ。
たとえば建機大手キャタピラー。23日発表の決算は純利益が前年同期比6割増と絶好調だった。だが原材料コスト増などで利益見通しを据え置き、失望売りを誘った。24日までの2日間で株価は14%も下落した。
さらに米国では、景気過熱を抑えようとする連邦準備制度理事会(FRB)の利上げと、なおも景気を刺激するトランプ政権のちぐはぐさが、投資家の先行きを見通しにくくしている。米投資ストラテジストのエド・ヤルデニ氏は「自動車だったらスピンして制御不能になっている」と指摘。最近の株安の背景には、財政・金融政策の不整合があるとみる。
トランプ大統領はパウエルFRB議長に責任をなすりつけようと躍起だ。米紙に「私にとってFRBが最大のリスク」と語るなど批判を強める。加えて中間層減税までぶち上げた。昨年末からの大型減税は確かに株高につながったが、ここに来て財政悪化がさらなる金利上昇を招きかねないとの懸念が強まっている。
米国発の株安の影響が最も目立つのが東京市場だ。25日の日経平均株価は前日より3・72%も下落した。一方、アジアの株価指数の下落幅は台湾が2・4%、韓国が1・6%。株安の発端となった24日の米ダウ平均の下落幅も2・41%で、東京市場の下げが際立つ。
日本の景気は輸出頼みの側面が強く、米国経済が減速するとなればその影響が大きく出やすい。日本銀行が金融緩和で上場投資信託(ETF)を買い、株高を演出してきたが、世界的な株安で内外の投資家が売りに走る前にはひとたまりもない状況だ。
今後は日本でも9月中間期の企業決算発表が本格化する。米国と同様、米中摩擦の影響に投資家は神経をとがらせる。みずほ証券の永田尋嗣氏は「市場は、来年や2020年以降の企業業績にいよいよ不安を感じ始めた。きょうの下落は不安を織り込んだものだ」と指摘する。(新宅あゆみ)
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野村総合研究所の木内登英(たかひで)氏
背景にあるのは米中貿易戦争だ。減税効果が続いた米景気にも悪影響が出て世界経済のリスクになるとの懸念が広がった。ペンス副大統領が4日の演説で中国を批判し、米中間選挙後に事態は改善するとの楽観論は後退した。トランプ政権は米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げを批判しており、関税引き上げでインフレが進んでも、FRBが利上げできるか不透明だ。ドルの信認が揺らいで金利上昇と株安を招いたのが足もとの状況だ。
外需が支えの日本にとって、米中の景気の悪化は不安材料だ。貿易問題はひとごとではなく、年明けに本格化する日米貿易交渉次第では、直接的な影響も避けられない。(聞き手・福山亜希)
BNPパリバ証券の河野龍太郎氏
単なる株式市場の揺れ動きではなく、世界経済の拡大局面が終わりに近づいていると見るべきだ。景気がただちに悪化するわけではないだろうが、好景気は永続的なものではないという前提での対応が必要だ。
世界的に金融緩和された環境のなか、景気拡大はかなり成熟している。株価の水準も相当高かった。米金利の低さが一因だったので、米国が利上げすれば株安になる。加えて、米中の貿易摩擦の影響が中国の実体経済に出始めている。米国の対応は、中間選挙以降も変わりそうにない。
日本も金融緩和と株高という外部環境に恵まれてきた。成長も外需に支えられてきたので、世界経済のリスクが顕在化すれば無傷ではいられない。(聞き手・柴田秀並)