五輪王者同士の「もったいない」対決が、国内で実現するかもしれない。
伊調馨、五輪5連覇のカギは パワハラ問題乗り越えた先
吉田沙保里、東京五輪出ない? 迫るタイムリミット
レスリングの全日本選手権は20日、東京・駒沢体育館で開幕し、2020年東京五輪の代表争いが本格化する。注目は女子57キロ級だ。五輪4連覇の伊調馨(ALSOK)とリオデジャネイロ五輪63キロ級金の川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)がエントリーした。日本協会幹部が「もったいない」という五輪金メダリスト同士の対戦は、実現すれば国内では男女通じて初となる。
伊調は10月、リオ五輪以来の実戦となる全日本女子オープン選手権を圧勝。「レスリングをもう1回再開できたことが幸せ」と実感を込めて言った。
今年に入り、日本協会の栄和人強化本部長(当時)によるパワハラ被害が表面化した。沈黙を守りながら、4月ごろ本格的な練習を再開した伊調は「(競技を続けることは)自分勝手、わがままなのではと葛藤した」とこぼした。
しかし、男子のビデオをみて技を研究するなど強さのみを求める孤高の34歳は「自分でもびっくりするぐらいレスリングが好き」とマットに戻る決断をした。
伊調、全日本選手権が試金石に
東京五輪を目指すのかは明言していない。「5連覇したい気持ちを心の底からつくらないといけない。絶対崩れない気持ちをつくって、(挑戦するという)発言をしたい」と話す。
その試金石となる全日本選手権で、最大のライバルとなるのが川井梨だ。10月の世界選手権59キロ級を制し2年連続で頂点に立った。吉田沙保里(至学館大職)と伊調に代わり、日本女子のエース格に成長した24歳。伊調を「自分が小学生のときからずっとトップにいる選手。長いこと続けるのは本当にすごい。自分ができるかっていわれたら難しい」と尊敬する。
同じ階級で伊調の背中を追い続けたが、至学館大4年生で迎えたリオ五輪は、栄監督(当時)に「実績を作ることも大事だ」と説得され、63キロ級に階級をしぶしぶ変更した経緯がある。
川井梨、夢は妹と五輪同時出場
川井梨の夢は今回62キロ級にエントリーした妹・友香子(至学館大)との五輪同時出場だ。そこで今回は、過去3戦全敗の伊調に挑む決心を固めた。「すべては東京の金メダルにつながるようにやっていきたい」
伊調と川井梨の2人は先月の全日本合宿でスパーリングを行った。西口茂樹強化本部長は「伊調の集中力はさすが。川井梨は攻めきれるか。楽しみ」と話す。女子57キロ級は22日に準決勝まで、23日に決勝が行われる。伊調はシードされないため、決勝を待たずして夢の対決が実現する可能性がある。(金子智彦)
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〈東京五輪代表への道〉 今大会は来年9月の世界選手権代表選考を兼ねる。優勝者は来年6月の全日本選抜選手権も制すれば世界選手権代表となる。世界選手権でメダルを獲得すれば東京五輪代表に決定する。全日本選手権と全日本選抜選手権の優勝者が異なる場合は、プレーオフを実施して世界選手権代表を決める。