「欧州連合(EU)がどこに雇用を生んだ? ハルは漁業をEUに奪われた。40年もだまされ続けた」
ロンドンから列車で北へ3時間、英国東部にある人口26万人の港町ハル。英国の52%がEU離脱を支持した2016年の国民投票で、この町での離脱支持は68%に上った。そのうちの一人、建築業のジェームス・チャップマンさん(46)は一刻も早い離脱を望む。
ハルはかつて欧州有数の漁港だった。数百のトロール船が競って名物フィッシュ・アンド・チップスの材料の白身魚を水揚げし、水産工場や船の修理施設などで栄えた。
英政府の統計によると、1969年のハルの水揚げ量は約22万トンで国内首位。だが79年は約3万9千トン、99年には9500トンと激減した。今は上位20港にも入らず、年間統計に出てこない。海沿いはいま、閑散とする。
チャップマンさんは、トロール船に乗っていた父から「EUのせいでハルの漁業は廃れた」と聞かされた。EUでは、各加盟国に魚の種類ごとの漁獲上限を設け、各国の排他的経済水域(EEZ)は共通海域とする。国と国が陸続きのEU各国にとり、海に囲まれた英国のEEZは魅力的な漁場だ。地元船が消えた近海で、スペインやポルトガルの船が操業する。
チャップマンさんは言う。「EUを出れば、自分たちの海を自分たちで管理できる。早く主権を取り戻したい」
EUからの離脱の方法をめぐって英国内の議論が迷走するなか、離脱を待ち望む人たちがいる。産業は衰退し、政治には見向きもされない――。そんな「忘れ去られた町」を訪ねた。
「大金が直接投資されていたら」
漁獲が減ったハルでは、船の修…