2020年東京五輪で新種目となるカヌー・スラロームの女子カナディアンシングル。男子では「ハネタク」こと羽根田卓也(ミキハウス)が16年リオデジャネイロ五輪で銅メダルに輝いた種目だ。羽根田と同じようにスロバキアを拠点に練習し、新種目での五輪出場を目指す女子選手がいる。
山口県萩市で21日にあった日本代表最終選考会。優勝した八木愛莉(24=ANA Cargo)は、小麦色に焼けた肌から白い歯をのぞかせて言った。「決勝は自分のベストが出せました」。五輪の代表権をかけて戦うワールドカップ、世界選手権への出場権を手にした。
この種目が東京五輪で追加されることが決まったのは17年6月。「これは私がやるしかないと思った」と振り返る。
なぜか。このとき、パドルの片方だけに水かきがついたカナディアンを始めてから、まだ3年あまり。3歳からカヌーを始めたが、専門は両端に水かきがついたカヤックだった。
だが、脱臼癖を直すために13年秋に左肩を手術。両手でこぐカヤックは難しくなり、リハビリを兼ねて始めたのがカナディアンだった。そんな種目が五輪種目に決まるところに運命を感じたという。
神奈川県相模原市出身で、4人きょうだいの長女。高校生の時から海外で腕を磨きたい思いがあったが、両親からは反対された。それでも、「こっそりと準備」を進めた。スポーツ振興財団の助成を受けるための面接に出向き、プレゼンテーションに成功。「既成事実」を作った上で両親を説得し、20歳で強豪国のスロバキアに渡った。国際大会で知り合った現地選手のつてを頼り、コーチを見つける。ホームステイをしながら技術を磨いた。
目標は東京五輪でのメダル。海外選手との差は大きいが、目指すべき存在は身近にいる。同じスロバキアを拠点にしている羽根田だ。時に助言をもらいながら技術の高さ、精神面の強さをお手本にしている。
「いつか、あの位置にいけるように頑張りたい」と目を輝かせた。(山口史朗)