毎晩だれもが見る夢。幸せな夢だけ見たいが、何かに追いかけられたり、仕事で苦労するなど「悪夢」が多いように感じるのはなぜだろう。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠がある。レム睡眠のとき、脳はまどろみ状態で、眼球は活発に動く。ノンレム睡眠では脳は「熟睡」し、眼球も動かない。夢は、脳が活動したままのレム睡眠時に見るとされる。
レム睡眠時、外界からの刺激が遮断されるとともに、脳からの運動の命令も脊髄(せきずい)で遮断される。このため、意識があっても筋肉が動かない「金縛り」と呼ばれる状態を起こす。これは夢が原因で動き出し、睡眠が中断することを避ける機能と考えられる。
ネコを使った実験で、レム睡眠時に筋肉の動きを止める神経を働かなくすると、ネコは目をつぶったまま獲物に飛びかかる動作をしたり、身構えたりした。この行動は「生存に不可欠な行動をリハーサルし、いつでも行動できるように準備している」と結論付けられた。
一方、睡眠中に寝言を言ったり、ねぼけて動き回る「レム睡眠行動障害」の人に夢の内容を聞くと、犬に飛びかかられる夢や泥棒と戦う夢など、危機に対応する内容が多かった。彼らの就寝中の動作も、手足を激しく振り回したり、「バカヤロー」など攻撃的な言葉を叫んだりした。
こうしたことから国立精神・神経センター精神保健研究所の内山真・精神生理部長は「夢は、危機状況のリハーサルという『悪夢』が基本なのではないか。悪夢を避けることは難しい」と話す。ただ、睡眠中の脳は、夢の内容を秩序だって記録する機能が止まっている。すっきり目覚めれば、悪夢もきれいに忘れられるという。【永山悦子】
毎日新聞 2005年9月21日 東京朝刊