日本が世界に誇る日本刀は、鉄を鍛え、そして熱処理を施すことで鋭い切れ味を出す。なぜたたけばたたくほど、丈夫な刃物になるのか。
「鉄は炭素の量や温度で性質を変える。まるで生き物のようです」と語るのは、東京工業大学大学院理工学研究科の松尾孝教授(材料工学)だ。鉄は炭素を含む量で、鋼(はがね)と鋳鉄(ちゅうてつ)に分かれる。日本刀には鋳鉄より炭素量が少ない鋼が使われる。
刀身は刃の部分の芯(しん)鉄と、それを包む皮鉄からなる。皮鉄には炭素含有率約0・3%の鋼を用いる。皮鉄をたたいて鍛えると、小さなすき間をつぶすことができるほか、結晶が小さくなるため、粘り強さを損なわずに強度は増す。
一方、切れ味が求められる芯鉄には、炭素含有率が約0・8%の鋼を使い、鍛えた後、焼きを入れて硬くする。焼き入れとは、高温にした鉄を急冷することを言う。日本刀の場合、約800度に加熱して、お湯を使って冷却する。
鉄をゆっくり冷やすと、炭素の大半は炭化物として外に出る。しかし、高温の鉄を急冷すると、多くの炭素が外に出ないまま、ゆがんだ結晶となる。この結晶は外からの力に強く、ほとんど変形しない。芯鉄は焼き入れで、硬さを得ることになる。
硬い芯鉄を、粘り強く軟らかい皮鉄で包むことで、切れ味鋭く、丈夫な刃物が作られてきた。焼き入れの温度は鉄に含まれる炭素量などで微妙に異なる。「昔の刀鍛冶(かじ)は、経験から温度による鉄の変化を会得していたことになる」と松尾教授は話す。【佐藤岳幸】