吸水口や排水口のふたが固定されていないプールは全国で305カ所、吸排水管に吸い込み防止金具が設置されていないプールは1596カ所もあることが分かった。埼玉県ふじみ野市の市営プールの吸水口で小学2年の女児が死亡した事故を受け、文部科学省が緊急調査した。危険なプールがこれほど多く放置されていたことに、がくぜんとする。
集計対象は公立学校のプールと教育委員会が所管する公営プール。国私立学校のプールなども調査中で、数字はさらに増える。
文科省は安全確保の措置が取られるまで、問題のあるプールの使用中止を求める通知を出し、これを受けて使用を中止するところが相次いでいる。子供たちがプールで楽しむ季節だが、安全を第一に考えればやむを得ない措置だ。これを機に、プール設置・管理者は総点検を繰り返し、安全対策に万全を尽くさなければならない。
吸排水口に手足を吸い込まれる事故は学校プールなどでしばしば起き、その危険性が問題視されてきた。にもかかわらず吸排水口の不備はなぜこんなにあったのか。
文科省は毎年夏前、各都道府県教委などに通知を出し、(1)排水口にはふたや金網を設けてネジ・ボルトで固定させる(2)吸い込み防止金具を設置する--ことを求めている。しかし、文科省として学校プールを全国調査したのは、排水口事故が相次いだ96年だけ。その後は03~04年に日本体育施設協会が調査した結果をもとに各教委への改修指導にとどまっている。通知で事を済ませようとする「お役所仕事」が続いたといえる。
通知そのものの表現も分かりにくく、吸い込み防止金具をふたとは別に吸排水管に取り付ける「二重の備え」を通知が求めているとは理解できなかったという学校関係者もいる。ふじみ野市のプールでも、吸い込み防止金具は設置されていなかった。
一方、公営プールの調査は今回が初めてだ。ふたを固定していないところが公営全体の4・2%、吸い込み防止金具を設置していないところが12・4%と、学校の割合(0・6%、4・1%)よりも高い。安全対策への認識が学校より薄れていたことになる。
ふじみ野市のように、プール設置者は市長、管理者は市教委と分かれているうえ、実際の管理・運営を民間業者に委託しているところが少なくない。責任の所在が明確でないことが、安全管理をおろそかにさせている大きな要因ではないか。自治体は委託先に責任を押しつけず、公営プールの安全対策を先頭に立って講じていく責務があることを自覚すべきだ。
プールの危険は吸排水口だけに限らない。常におぼれる可能性があり、飛び込んでプールの底に頭を打ち付ける事故も絶えない。事故を減らすには、プールサイドにきちんと安全講習を受けた監視員を多く配置し、いざという時に速やかに救助できる態勢を整えるしかない。利用する人たちも、危険といつでも背中合わせだと認識して慎重に行動することが大切だ。
毎日新聞 2006年8月9日