ホースなどを使い吸水口の前で女児の救出作業を行う救急隊員ら=埼玉県ふじみ野市で7月31日午後4時5分、本社ヘリから佐々木順一写す
埼玉県ふじみ野市の市営プールで同県所沢市立小手指小2年、戸丸瑛梨香(えりか)ちゃん(7)が吸水口に吸い込まれ死亡した事故で、救出活動を続けたレスキュー隊員たちが当時の模様を証言した。プールの外壁を壊し、パイプを切り開く作業は難航を極めた。すり傷だらけの瑛梨香ちゃんの体が外に出たのは約6時間後。「絶望的な状況だった。でも、生存を信じていた」と隊員たちは悔しがった。【町田結子、村上尊一】
「女の子が吸水口に吸い込まれた」。入間東部消防本部に119番が入ったのは7月31日午後1時50分。第一陣15人は9分後に現場に到着した。
直ちに救助隊員(31)がプールに飛び込み、吸水口(直径約50センチ)に頭を突っ込んだ。その先に続く直径30センチのパイプ内を懐中電灯で照らしたが、人影はない。報告を受けた指揮官(53)は配管図を見た。二つのカーブを経て約10メートル先で起流ポンプにつながっている。「女の子がいるのはポンプ手前の屈折部分だ」と直感した。
十数分後に地下ポンプ室の鉄ふたが外された。パイプは縦横に屈曲。狭い地下室では電動ノコギリが使えず、刃だけを外し、手作業でポンプとパイプをつなぐボルトを1本ずつ切った。やっと数センチのすき間が開いたのは同5時12分。「手のようなものが見えます」と隊員が叫んだ。「本当は見間違いの誤報であってほしかった。パイプ内のどこにもいないで欲しかった」と指揮官はその時の気持ちを振り返る。クレーンでプール横に運ばれたパイプに指揮官が手を入れ、瑛梨香ちゃんの真っ白な手に触れると、ひどく冷たかった。
狭いパイプに強く押しつけられた体は手の届く所にあるのに、引き出せない。電動ノコギリで体の真上を切断することになった。体を傷つけないよう、すき間に毛布が詰められた。それでも残る空間には、危険だったにもかかわらず隊員が腕を差し込んだ。
自分の娘の姿と重なったというこの隊員は「もうすぐ出られるよ」「もうちょっと頑張って」と震える声で励まし続けた。パイプが二つに割れ、小さな体中に無数の擦り傷を負った瑛梨香ちゃんの体が出てきたのは同7時40分過ぎ。「痛かっただろうね」「苦しかっただろうね」。回りを囲む隊員たちは泣き崩れたという。